行政不服審査会委員の国会同意人事案について
FFK36
行政不服審査会委員の国会同意人事案についてである。昨年に続いての本会の同意人事案である。総務省のホームページによると行政不服審査会は行政庁の処分又はその不作為についての審査請求の裁決の客観性・公正性を高めるため各府省の諮問に応じて審理員が行った審理手続の適正性や法令解釈を含め審査庁の判断の妥当性をチェックする機関である。令和6年度の答申は69件出している。令和5年の諮問件数は96件、判断が妥当ではないと判断したものは12件であった。12.5%も各省庁の判断が覆っているのだから結構多く感じる。担当した審査庁は大いに反省し以降に向けて改善に取り組むべきである。
さて、本会の委員は9名で、常勤が3名、非常勤が9名となっている。任期は3年。常勤での信任案である八木一洋氏は東京大学法学部を卒業し裁判官となり、東京地裁部統括、東京高裁部統括、名古屋高等裁判所長官を歴任し先月定年退職した。八木一洋裁判官と言えば日本で初めてのセクハラ裁判の裁判長。証拠不足としてセクハラの認定はしなかったが原告を勝利とした判決を書いた。これまでの経験を活かして行政庁への不服申立てに対し公明な法解釈ができる人物だと信じ八木一洋氏の常勤での新任案には賛成するべきだと考える。
常勤の新任案である田澤奈津子氏は中央大学法学部を卒業後、検事として東京、横浜、青森、札幌、さいたま、静岡、名古屋で勤務し千葉大学法科大学院教授、司法研修所教官などを歴任し、現在は東京高等検察庁検事を務めている。法務省大臣官房や公正取引委員会事務総局にも勤務経験がある。専門は当然、刑事法。常勤委員の席は3席。判事、検事、官僚である。そのバランスを崩さないという意味では田澤奈津子氏の就任は適当である。これから3期務めるとちょうど65歳になる。特筆すべき事項がない人物であるが、言い換えれば大きな問題も起こしていないということ。さしあたり田澤奈津子氏の常勤での新任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での新任案である羽田淳一氏は中央大学法学部を卒業後、行政書士として山梨県行政書士会に所属。平成27年に特定行政書士となる。特定行政書士とは官公署に提出する書類に係る許認可等に関する行政不服申し立ての手続きの代理業務を行えるようになる行政書士のこと。富士吉田市や笛吹市や甲府市で空家対策の審議会等の委員を務める。退任予定の行政書士である木村宏政氏の後任と言えよう。行政の現場において実務を負う行政書士が本会の委員になることは意義がある。現場での豊富な実務経験が役人と国民のギャップを埋めてくれたら期待する。よって、羽田淳一氏の非常勤での新任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での新任案である福本美苗氏は中央大学法学部卒の弁護士である。名古屋弁護士会に所属し、名古屋簡易裁判所民事調停官、名古屋地裁家事調停員を務める。愛知県行政不服委員会委員、愛知県薬事審議会委員、名古屋市開発審議会委員を歴任。本会の委員には判事と検事がいることから弁護士の委員も必要である。裁判でもそうだが原告と被告を裁判官を挟んでいる。より正確な判断を期すためには会の委員に弁護士がいた方が良い。福本氏は派手な実績を持たないまでも地元に根差した活動にも熱心のようで好感を持つ。委員の専門分野のバランスを考えても福本美苗氏の非常勤での新任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での3期目の再任である中原茂樹氏は東京大学大学院法学政治学研究科を修了後、大阪市立大学法学部助教授、東北大学大学院法学研究科教授を務め、現在は関西学院大学法科大学院教授に就いている。行政不服審査法、情報公開・個人情報保護、行政法が専門であるからそのものズバリ本会の分野に通暁している。消費者庁の消費者安全調査委員会委員、公正取引委員会独禁法研究会会員、人事院の国家公務員総合職試験委員、法務省の司法試験考査委員など多くの諮問会議の委員を歴任している。「行政不服審査手続の諸問題」「行政訴訟における主張構成の方法」などの口頭発表を行っている。本会の根拠法や事例そのものが中原氏の研究分野であることから中原茂樹氏の非常勤での再任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での3期目の再任案である野口貴公美氏は一橋大学大学院法学研究科を終了後、法政大学社会学部講師、中央大学法学部教授を務め、現在は一橋大学大学院法学研究科教授を務めている。併せて一橋大学理事・副学長でもある。専門は行政法。法務省の出入国在留管理政策懇談会委員、内閣官房の情報保全諮問会議構成員、警察庁の政策評価研究会委員などを歴任している。論文に「行政の実効性確保法制における「公表・その他手法」について」や「「難民を認定する行為」の行政法学的分析」「行政法学における「公務員」−応援職員の派遣の問題を契機として」がある。難民認定には不服申立てを行うケースが多々ある。野口氏の研究は法学者として審理の適正を望むためにも有用であろう。一橋大学の副学長での役割はダイバーシティ担当としてであり、女性活躍推進の問題や職場の性的マイノリティー、国籍・人種の異文化出身者への配慮に関する分野である。そのことだけ少し気がかりであるが、それを理由に反対することは時代にそぐわない。よって、野口貴公美氏の非常勤での代人案には賛成するべきだと考えるがどうだろうか・・・。
参考
行政不服審査会 総務省
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/fufukushinsa/index.html
令和5年度 行政不服審査会の活動状況 https://www.soumu.go.jp/main_content/000946975.pdf
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