公職選挙法の改正法案について
ハリー ポスター・・・。
公職選挙法の一部を改正する法律案についてである。今国会に与野党7党による議員立法として2本の法案が提出された。議案番号10は選挙ポスターについて選挙の種別によって規格が異なったが縦42cm、横40cmに統一すること。そして、選挙カーについて今までは構造上宣伝を主たる目的とする乗用車、サンルーフ車、小型トラック、8ナンバー車等を用いることができなかったが、普通免許で運転することができる普通乗用車の乗車定員10人以下、車両総重量3.5トン未満のものを用いることができることにすること。こちらの法案(議案番号10)に関しては全会一致で可決している。もう一本の法案(議案番号9)が昨年の選挙で世間を騒がせた事態に係る対処として作られた改正法案である。内容は昨年の東京都知事選でのポスター掲示に関すること。
・候補者の名前を見やすいように記載しなければならない
・他人の名誉を傷つけたり、善良な風俗を害したりするなど品位を損なう記載をしてはならない
・特定商品の広告や宣伝をした場合は100万円以下の罰金を科す
というものである。選挙ポスターは当然、選挙に立候補している候補者の広報に使われる為にある。スーパーの広告や映画館のポスターとは違う。公職の候補者を有権者に周知するためにあるから多額の公費が費やされている。いわばポスター掲示は公共性・共益性の高い行為でありモノである。昨年の東京都知事選では公費で提供された掲示板に風俗店の広告やQRコードで有料サイトに誘導するポスターなど選挙とは関係のないポスターが大量に貼られた。貼られていたのはNHK党の関連団体の立候補者の掲示板枠で掲示板1か所につき24枚を貼ることができる。候補を擁立しているNHK党の関連団体のポスターに印刷されたQRコードを読み込むと「掲示板をジャックせよ」というキャッチコピーのもと選挙とは無関係の有料SNSを紹介するページに誘導される仕組みとなっていた他、NHK党のホームページや党首立花孝志氏のYouTubeでの発信で繰り返し案内がされていた。東京都選挙管理委員会には一日つき1200件以上の苦情の電話やメールが寄せられて対応に追われたという。都選管は公職選挙法に違反しているわけではないので対応できず警察の対応を待つとしていたが都迷惑防止条例違反の疑いがあるものを除いて警察が取締りに動くことは当然なかった。法律や条例で禁止されている行為ではないのだからしてもよいという主張には違和感を持つ。そうだとすれば凄まじい夥しい莫大な数の法律や条例が必要となる。事件や諍いが止むことはないが一定のモラルが社会を下支えしてきたことも事実である。民主主義を愚弄する行為は行うべきではない。選挙における無駄な掲示板の廃止やポスターの廃止を主張するための行為だというのではあれば、それは実際の選挙で行うのではなく議会や政治活動の場において行うべきである。
では今回の法改正で先の都知事選での行為を防げるのかという観点で見ると中途半端ではある。選挙ポスターの掲示板で特定商品の広告や宣伝ことは論外であるが、品位を損なう記載を禁じるという表記には曖昧さも窺われる。大多数の国民には理解できるが一部の少数にはそれが理解できないからこそ今回のような問題が発生したとも考えられる。よって多少の懸念が残る。品位とは何か。品位を誰がどのように解釈するのか。結局、行きつくところは国民のモラルに頼ることになるのか。
都知事選のポスター騒動で唯一NHK党よりの見解を示したのが破防法の監視対象である日本共産党である。共産党の一部の議員は、選挙期間に入ると候補者名が入ったビラやポスターは極端に減るのが日本の選挙であり、だから公営掲示板にプレミア感がつくと指摘し、検討すべきことは規制を強化して選挙を特別な一部の人だけのものにするのではなく、主権者である国民、有権者の選挙権行使のために選挙運動の自由を拡大すべきだと主張している。何にでも反体制の立場である共産党が相乗りしようとするのであるからNHK党とて迷惑な話であろう。
さて、改正案には附則として「選挙に関するインターネット等の利用の状況、公職の候補者間の公平の確保の状況その他の最近における選挙をめぐる状況に対応するための施策の在り方については、引き続き検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。」と付け加えられている。選挙の候補者や政治家の演説の動画を興味本位で切り貼りして編集しSNSや動画投稿サイトにアップロードして広告収入を得る行為が増えている。中にはその政治家の演説内容や印象が大きく変容するような恣意的な編集を加えた投稿も少なくない。背景には投稿数や閲覧数、動画再生回数に比例して収益が増える仕組みになっており、おのずと内容が過激になり、正確性を欠いた情報の発信を招く可能性がある。そのことが選挙結果をゆがめてしまうことが危惧されている。SNSやプラットフォーム事業者が支払う報酬の原資は広告収入である。選挙前の一定期間と選挙期間中は選挙に関わる投稿に対する広告を禁止することで収益を封じることは物理的に可能である。そのような対策を講じて、選挙の公正性、公平性を重んじることが表現の自由を制限することにもなりかねない。村上誠一郎総務大臣は去る臨時国会において「公選法に虚偽事項公表罪が設けられているが、SNSを含め、インターネット上の発信なども対象となる」と答弁するに留めている。
巷で二馬力選挙と称される他候補の当選を目的に選挙に出馬する行為についても規制を求める声が広がっている。昨秋行われた兵庫県知事選に立候補したNHKから国民を守る党党首の立花氏の動きについて他の候補者の当選に資する選挙運動を行っているとの疑念を抱かせるという声が多く上がったことに起因する。立花氏は対立候補である斎藤元彦氏に「プラスになるような運動をする」と宣言した上で斎藤氏を擁護する発言や評価する発言を街頭演説やYouTubeでの発信で繰り返し行った。それらの行為を疑問視し規制を望む声が高まっていた。昨年12月の臨時国会で村上誠一郎総務大臣は「候補者が他の候補者の選挙運動を行う場合には、その態様によっては、公選法上の数量制限などに違反する恐れがある」と懸念を示した。2月には19都道府県の知事が連名で「民主主義と地方自治が危機に晒されている」として国に抜本的な対策を求めている。石破茂首相も2月の衆院予算委で2馬力行為を「どう考えてもおかしい」と法改正に言及した。とはいえ、法改正の必要性が論じられているのは現行法に抵触していないという証左にもなり得る。感情論で規制を強めることには慎重であるべきだ。選挙期間中は表現の自由や言論の自由に寛容であるべきだというこれまでの法規定の姿勢は維持してもらいたい。選挙と何ら関係のないポスターの掲示を規制するのは当然であるが、SNSによる選挙ビジネスの規制や立候補者による二馬力行為の規制には様々な具体的行為を想定した上で慎重な検討を重ねるべきである。そういう意味では効果は薄くなるかもしれないが本改正法案には条文に規定せず附則に記すにとどめたことは妥当であったと考える。
選挙ポスターやポスター掲示板の有用性の疑義に関する問題提起やメディアによる一方的な世論形成による不利な状況を強いられた候補者の擁護の為の立候補などには一定の大義名分が存在する。一方、公選法に規定されていないからと言って公平公正であるべき選挙に直接的行為として信義を損なう可能性のある行為を実践することは社会性に反するであろう。憲法との兼ね合いを念頭に政治家は逃げずに答えを出す必要に迫られている。
問題提起に立法府として最低限の対応をしたという意味では賛成。SNSを利用して収入を得ることを職業としている者もいることから選挙におけるSNS情報への広告の禁止はせずに他の対策を熟慮するべきだと考える。
*選挙ポスターにおいて品位を損なう記載とはどのようなものなのか具体的な例示をされたし。
*選挙ポスターにおいて品位を損なう記載だと判断する誰か。また、その判断基準を明文化するべきだと考えるが如何に。
*選挙ポスターの表記の内容について制限を加えることは憲法との兼ね合いもあり予めガイドラインを提示しておくことが重要だと考えるがいかがか。
*附則3の選挙におけるSNSの利用の状況と対策について検討の主体となる機関と検討する期間の目途を示されたい。
*SNSを利用して収入を得ることを職業としている者もいる。選挙において候補者の情報や政治的な争点などの情報を発信することは憲法第二十一条で保障されていると承知する。それに関わる発信に対しての広告を禁することは憲法で保障された権利の一部を制限することにはならないのか、政府の見解を問う。
参考
公職選挙法の一部を改正する法律案
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/217/meisai/m217090217009.htm
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/217/meisai/m217090217010.htm
公選法改正案、各党に提示 SNSの議論は付則に明記 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20250214/k00/00m/010/297000c
「2馬力選挙」規制、実効性にはハードル 改正公選法案でも違反事例明示は先送り
産経新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/81cef3c5946d837930f586268cde859c6a699999?page=1
ポスター掲示板問題「“べからず法”の公選法の抜本的見直しこそ必要」 塩川鉄也
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