国際開発協会及び米州投資公社に関する改正法案

別にIDAろう?別にIIC。

 国際開発協会への加盟に伴う措置に関する法律及び米州投資公社への加盟に伴う措置に関する法律の一部を改正する法律案が今国会に提出されている。同様の法案は繰り返し提出されている。今回でなんと21回目となる。

 国際開発協会(以後、IDAという)とは世界銀行の関連団体である。主に低所得国向けに超長期で低利融資、もしくはグラント(無利子)を提供している機関だ。同様の役割を持つ機関に国際復興開発銀行(IBRD)というものがあるが、そちらは中所得国を対象として長期融資を提供している。戦後の日本政府も新幹線網や高速道路網の整備の為にIBRDの融資を受けたことがある。いわずもがな、それらの社会インフラ整備が進むことによって日本経済は高度経済成長を遂げたのだ。目覚ましい経済発展を遂げた日本は巨額の借入国を負っていたが今では世界有数の資金供与国となっている。IDAは第二世銀と言われ、IBRDでは与信が付かないような貧困国をはじめとした発展途上国の社会資本への長期融資を行っている。IDAは世界の最貧国75ヵ国に対する最大の援助源の1つであり、これらの国における必須の社会サービスである。ちなみに発展途上国の民間企業への投資促進を行っているのが同じく世界銀行グループの国際金融公社(IFC)である。IDAは1960年に設立されて以来、3年ごとに増資を繰り返してきた。21回目の今回は加藤勝信財務大臣が昨年12月にIDAとの交渉に臨み今国会で承認が得られることを前提に合意している。

 今回の増資でIDAは1千億ドル、日本円にして約15兆円の資金調達を目指している。そのうち、日本が今回の増資で支出するのは4257億円を予定している。3年前の前回は4206億円であったから微増ではあるが現状維持と言えよう。今回の増資の目的はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進を含む保健システムの強化、パンデミックへの予防・備え・対応、自然災害に対する強靭性、債務の透明性・持続可能性等が重点課題として挙げられている。IDAの目標額は15兆円とはいうものの現在出資している各国が表明している拠出予定額は日本を含めた59ヶ国によって235億ドル、日本円にして約3兆5千億円となっている。残りの約11兆5千億円は債券発行や金融レバレッジを活用する予定としている。

 日本以外の出資国の対応は徐々に出そろってきている。ノルウェーや韓国、英国、スペイン、米国がそれぞれ拠出額の増額を発表している。米国はバイデン大統領が昨年11月に前回の35億ドルを上回る40億ドル、約6200億円の出資を表明している。英国が出資を減額する一方で米国は出資比率を伸ばしている。日本は米国に次ぐ10.5%を引き受けている。前回の増資であるIDA20が完了した時点での各国の出資比率は米国がトップで10.18%、日本が10%、英国5.71%、ドイツ5.61%、フランス5.06%、中国3.84%、カナダ3.45%、スウェーデン3.14%、オランダ2.94%という順になっている。

 ノルウェー、韓国、米国、スペインなどが拠出額の増額を表明している一方で従来の大口拠出国の一部は減額している。それらの国の政府にとって世界の貧困問題は国内で支持を得るのが難しい状況になりつつある。このトレンドも時代の変化の一端を示しているのかもしれない。

 今年に入って最大の拠出国である米国の大統領がトランプ氏に交代している。IDA21に関しては既にバイデン氏が約6200億円の引き受けを表明しているのだが議会の承認はこれからである。トランプ氏が効率化省のトップに起用したイーロンマスク氏は行政コストの削減を進めている。ひょっとすると国際貢献に関しても無駄の一種とされてしまいかねない。そうなればIDAなど世界の最貧国を支援する枠組みの瓦解が危惧される。

 現在、IDAは75カ国を支援しており、そのうち39カ国はアフリカ諸国である。IDAはアフリカ全土の経済成長の強力な原動力として機能してきた。2030年までに2億5000万人のアフリカ人に電力を供給するという世界銀行グループの目標達成に重要な役割を担っている。アフリカは、豊富な天然資源、豊富な日照、世界で最も急速に増加する若年人口など可能性に満ち溢れている。アフリカ大陸の未来は地球とそこに存在する人類の未来を占う。この星に者として国家として無縁ではない。

 さんざんグローバリゼーションを煽り世界各国や国民間の格差を拡大してきた米国が感染症や気候変動災害に苦しむ途上国の深刻な債務危機に目を逸らし自国優先主義に極端に傾倒することは誰を利し誰を害することになるのか。中国やロシヤら覇権主義国は着々と途上国の従国化を進め世界の分断を拡大している。米国が支援縮小に踏み切った場合の影響は大きい。その場合、IDA拠出額2位の日本の役割は大きい。大国同士のイデオロギー対立や自国優先主義に傾倒しがちな状況の中で日本は二者択一的に米国追従に終始するのではなく他のIDAドナー国の取り纏め役を担い、途上国や最貧国が深刻な危機に陥らないようにリードしなければならない。グローバルサウスとの連携を強化し新しい国際秩序の構築に今こそ日本が邁進するべき時が到来している。日本の存在感が世界から問われている。現状、アフリカにおいてはFDI 等の⺠間資金が経済成⻑及び貧困削減に寄与しているという事実はない。ODAと一緒にはできない。IDAは関連のIBRDも含め戦後の日本の発展を力強く支えてきた組織である。日本がIDAを支えるべき立場にあるのはその礎を認めるからに他ならない。過去にも未来にも日本が日本だけで成長し存在することはありえないのである。

 さて、米州投資公社(IIC)への出資に関する改正であるが、こちらは実に不明点が多い。米州投資公社への加盟に伴う措置に関する法律の現行の条文では「政府は、米州投資公社に対し、六百二十六万合衆国ドルの範囲内において、アメリカ合衆国通貨により出資することができる」としているが本法案では「政府は必要な額を限度として国債を発行することができる」とし金額の明示が無くなった。併せて通貨での拠出がなくなり国債での拠出になった。ドル高の影響か。税制法によって赤字国債は発行できないのだから保有外貨を担保とする国債発行によってIICに拠出していくということ。

 IICは中南米地域の中小企業に対する投融資を行っている機関であり、一般に米州開発 銀行(IDB)とあわせて米州開発銀行グループと呼ばれることが多い。日本はスペインと並び域外では筆頭の出資国であり3.8%の議決権を有している。中南米やカリブは6.6憶人の人口を擁しており、豊富な天然資源や鉱産物等を背景に世界の力強く持続可能な経済発展において重要な役割を果たしている。発展が目覚ましい地域であり膨大な開発ニーズもある。それにこたえるための民間の力が必要だということ。つまり、ほぼ100%がODA。IDAへの出資はその都度に法改正を必要とし国会の承認を得ることになるが、この法案を通すとIICへの出資は国債発行によって行い青天井となる。米国追従がむき出しになった法案であるが、IDAとIICを一本の改正法案として成立させてしまおうとする政府にはこざかしい多少の悪意を感じる。トランプ政権下の米国が中南米やカリブへの投資を縮小する場合には日本をそれに代わる財布としてうまく活用しようと目論見なのではないかという懸念が擡げる。ICCは開発援助だけを行っているのではない。気候変動や防災に加えて4本の柱のうちのひとつがジェンダー平等である。男女間の格差を訴えてきた機関という側面もある。環境、ジェンダー格差、気候変動というとわかる人にはわかるだろうが、それらの勢力であることが窺える。

 困ったことにIDAへは取り組みは積極的に主導的に取り組むべきだと考えるがIIC法の改正には慎重であるべきだと思料する。この2事案をひとつの法改正案として提出する財務省と石破政権には懐疑的になって当然だ。さて、どうしたものか。法案が成立しない場合は世界銀行グループからの日本の信用を毀損してしまう恐れがある。成立すると米国のコスト削減に日本が米国ODAの穴埋めとして使われないとも限らない。最貧困国を思い浮かべてしまうとついつい・・・。仮にこの法案が成立しないとなると日本は正面からトランプ政権と対立する。そうなると日本経済に及ぼす悪影響は計り知れない。


*トランプ政権がIDAへの拠出金を減らした場合には日本は追従するのか、それとも筆頭ドナー国として他の主要国のけん引役もしくは調整役として取り纏め役を担うのか、如何に。

*IICの改正案にはこれまで明示されていた拠出金の上限がなくなっている。それはどのような経緯でどうした意図なのか。

*IICへの協力を通じた中南米・カリブへの関りについて政府としての目的は如何に。

*米国によるIICを通じた中南米への投資が縮小した場合の日本への影響を政府はどのように考えているのか。


参考

国際開発協会への加盟に伴う措置に関する法律及び米州投資公社への加盟に伴う措置に関する法律の一部を改正する法律案 法律案 財務省

https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/217diet/ks070207a.pdf

「国際開発協会への加盟に伴う措置に関する法律及び米州投資公社への加盟に伴う措置に関する法律の一部を改正する法律案」について 概要 財務省

https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/217diet/ks070207s.pdf

国際開発協会への加盟に伴う措置に関する法律及び米州投資公社への加盟に伴う措置に関する法律の一部を改正する法律案要綱 財務省

https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/217diet/ks070207y.pdf

新旧対照表 財務省 

https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/217diet/ks070207t.pdf

世界銀行グループの国際開発協会(IDA)第21次増資交渉に関する財務大臣談話(令和6年12月6日) 財務省HP

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/mdbs/wb/20241206.html

IDAパートナーによる第20次増資への貢献 World Bank Group

https://thedocs.worldbank.org/en/doc/de673efb6d163ebe533e902221b5d415-0410012022/ida-partners-contributions-to-the-twentieth-replenishment

世銀、最貧国向けに1000億ドルの支援額確保 新規増資で ロイター

https://jp.reuters.com/world/us/AQ2W42KRB5JLVBE6L3CRWRLDCI-2024-12-09/

支援額、過去最高の15兆円 低所得国向け機関の新規増資で―世銀 時事通信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024120600793&g=int

貧困削減に本腰をIDA増資で佐々木議員 共産党

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-03-28/2008032808_02_0.html

米州投資公社 財務省

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/sonota/k_kikan_22/pdfs/132.pdf

第54回米州開発銀行・第28回米州投資公社年次総会 日本国総務演説

https://www.obuchiyuko.com/report_mof13panama.php

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