日本・インドネシアEPA改定の承認について
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経済上の連携に関する日本国とインドネシア共和国との間の協定を改正する議定書の見直しに係る承認についてである。インドネシアとの経済連携協定(EPA)を改定するというものであるが、EPAとは2以上の国の間で自由貿易協定の物品及びサービス貿易の自由化に加え、貿易以外の分野、例えば知的財産の保護や投資、政府調達、二国間協力等を含めて締結される包括的な協定のことを言う。日本は既に24か国と21の経済連携と締結している。米国、EU、TPP、ASEAN、RCEP、CPTPPなど含む主要国で締結しており、相手国との貿易が貿易総額に占める割合は78.8%にも及ぶ。中国、韓国とは締結していないがトルコ、UAE、GCC、コロンビアとは交渉中である。
日本とインドネシアとのEPAは2006年に締結し2008年に発効している。インドネシアは日本にとって12位の貿易相手国であり主要な投資先でもある。日本とインドネシアの貿易は60年以上前から続いており関係は良好である。インドネシアにとって日本は輸入が2位の輸出が3位のドイツに次ぐ貿易相手国となっている。インドネシアの対日輸出額は2023年度で2兆251億円、対日輸入額は3兆4116億円である。インドネシアの輸出品は石炭、天然ガス、石油、ニッケルが多い。以前は石油が最も多かったがインドネシア国内の経済成長の影響で現在は消費国としての側面が強い。近年、日本にとってエネルギー資源の調達先はオーストラリアやマレーシアに移りつつあるとはいえインドネシアからの天然ガスは死活的に重要な取引である。インドネシアは日本から農機具や建機、車、バイク、一般機械を主に輸入している。特にホンダがインドネシアでは有名になっている。ホンダの車は年9万台と苦戦しているがバイクは圧倒的なシャアを持ち500万台以上を供給している。衣料品ではユニクロも知名度が上がっている。インドネシア国内に58店舗を展開している。飲料品ではヤクルトがインドネシアでも支持されつつある。インドネシア国内にもヤクルトレディがおりスーパーやショッピングモールで実演販売を行っている。ヤクルトの売上は1日に700万本となっている。インドネシアの人口は約2.8億人となっており日本にとって有力な巨大市場でもある。日本からの経済援助は有償資金援助が約2738億円となっているが無償資金援助は3億円、技術支援は40億円である。インドネシアが諸外国から得る経済援助の約48%と約半分が日本からとなっている。岸田政権時代には岸田首相が在任中に3度もインドネシアを訪問している。2023年6月には天皇皇后両陛下の訪問も実現している。
さて、今回の議定書の改正点についてであるが、条文には5年で見直すと記載されており、2008年に発効した後の2013年に見直しをすること合意。2015年に見直す内容の検討を開始。2023年の岸田政権下で日・イ首脳会談で合意、2024年に両国が署名した。条文に記載された5年後の見直しの内容を決めるために10年も掛かっている。両国の役人の持つ時計は10進法ではないのだろう、時間の概念が規格外の野放図ぶりである。それだけ両国の通商など両国の二国間関係が良好であったとも言える。インドネシア市場での改正は自動車及び鉄鋼・鉄鋼製品計19品目の関税撤廃・引下げ、自動車生産等の特定の用途のために輸入される製品についての免税、日本産短粒種米の低関税輸入枠の設定、不動産サービス、倉庫サービス及び貨物輸送代理店サービスに関する約束を得たこと。日本市場に対しての改正点は114品目の農水産品等の関税撤廃・引下げである。バナナ、パイナップル、キハダマグロ、カツオ缶、マグロ缶、かつお節、マヨネーズ、果汁ジュースなどが対象となる。ルールの改正としては情報越境移転の制限禁止やコンピュータ関連設備の設置要求の禁止、ソースコード開示要求の禁止などを盛り込みデジタル貿易の促進を図る。特許の外国語書面出願手続における利便性確保や地理的表示(GI)関連規定の追加も追加された。看護師・介護福祉士候補者の受入れ条件の改善も為された。協定上、これまでインドネシア人候補者の我が国での滞在期間は看護師候補者にあっては3年間、介護福祉士候補者にあっては4年間とされており、この期間内に看護師又は介護福祉士資格の取得を目指すこととされていた。これを1年間延長しそれぞれの資格取得の為の機会を増やすことにした。令和6年度の介護福祉士のインドネシア人の資格取得者は228名であり増加している。資格を取得すると在留期間の更新の制限がなくなる。同様の措置はインドネシアに限ったことではなく同じくEPAを締結しているフィリピンやベトナムも対象として措置している。ちなみに令和6年度のインドネシアからの看護師の受入れは16名、介護福祉士は271名であった。看護師の受入れ人数は平成21年の173名をピークに減少の一途を辿っている。やはり、給料等の待遇が他の受入国より劣っていることが原因と考えられる。
令和7年1月石破総理は外遊でインドネシアを訪問しプラボウォ大統領と首脳会談を行った。会談では、安全保障分野の協力深化で一致するとともにアジア・ゼロエミッション共同体構想のもとでの電力プロジェクトをはじめ資源・インフラ協力の推進等を確認した。インドネシアの政治情勢は安定している。プラボウォ政権はインフラ開発の推進、高付加価値産業の強化など25~29年に544兆5000億ルピア(約5兆円)のインフラ事業に取り組むとしている。具体的には水資源開発や高速道路・橋梁の建設等のプロジェクトが上がっている。重要鉱物の開発や半導体素材の生産等には日本企業からの投資が期待され ている。
日本とインドネシアはともに海に囲まれた世界最大級の海洋国家でありインド太平洋地域が一体となる位置にある。2023年3月、岸田首相は「自由で開かれたインド太平洋」
(FOIP)という新たな戦略を発表した。この計画はインド太平洋地域のつながりを改善し、自由を守り、法の支配を尊重し、圧力や力から解放され、繁栄を促進する地域にすることを目的としている。FOIPの4つの柱は、
1.平和のための原則と繁栄のための規則を推進し続ける。
2.グローバル·コモンズの課題にインド太平洋の形で取り組む。
3.多層接続性の強化はFOIP への協力の中核要素である。
4.FOIPは伝統的に海洋問題を中心としてきたため、海から空まで安全な利用とセキュリティへのコミットメントを拡大する。
の4つである。
日本とインドネシアの地政は似ていることから協力しあえることも多いであろう。日本は噴火災害対策に対応したダムの建設や水資源管理、洪水緩和、海水浴場保全、衛生施設、有料道路の整備に関する知見を有している。長い協力関係から二国間にある信頼は厚い。2023年には日本がG7議長国(広島)となりインドネシアがASEAN議長国となることによりグローバルな課題への対応を共に行ってきた。広島サミットには岸田総理がインドネシアのウィドド大統領を招待して首脳会談を開催している。
インドネシアの経済成長率はベトナムと並んで高い。これまでは石炭や天然ガス、ニッケルなどの資源輸出に頼ってきた。インドネシアのこれからの経済成長には資源に頼り切らない付加価値産業や加工業の育成、市場の高度化が必要となる。現段階では外資の投資先がニッケル鉱石の採掘・精練に集中しており、それよりも付加価値の高い製品の輸出に結びついていない。この状況をベトナムは外資の誘致で乗り切ってきた。日本にはインドネシア産業の高度化に寄与する経験や技術は十分に備わっている。インドネシアと中国の関係が密接になりつつある今、日本がインドネシアの川下産業の育成の良きパートナーになることを願ってやまない。
*岸田首相は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)という新たな戦略は現在どうなっているのか。
*インドネシアと中国との関係が強化される中で日本としてのプレゼンスを高めるための方策を教示されたし。
*議定書の改正の検討から合意まで10年もかかるのは長すぎないか。
参考
日・インドネシア経済連携協定改正議定書 外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/st/pagew_000001_00002.html
日インドネシア経済連携協定(JIEPA)改正交渉が大筋合意 ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/12/3a3a9378686f42fc.html
インドネシア共和国 外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/indonesia/data.html
インドネシア:産業の高度化は可能か
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/emg/20240216_024253.pdf
インドネシア人看護師等の受入れの実施に関する指針 厚労省
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