WTO約束表の改善(サービス国内規制)に関する確認書について
やけくそのやくしょくのやくそく。
千九百九十四年四月十五日にマラケシュで作成された世界貿易機関を設立するマラケシュ協定のサービスの貿易に関する一般協定の日本国の特定の約束に係る表の改善に関する確認書についてである。凄く長い名称の確認書であるが通常は「WTO約束表の改善(サービス国内規制)に関する確認書」である。2017年に開催されたWTO閣僚会議で発せられた共同声明に関して有志国間で明文化する作業を進めていた。明文化された確認書の手続きを各国が順次行ってきたが、2024年2月に日本においても手続きを完了しており、今国会で承認を問うことになっている。本取組に関して72のWTO加盟国が参加しており、米国、EU、カナダ、中国、韓国など53か国で効力が生じている。
マラケシュ協定とは世界貿易機関(WTO)の設立と権限や任務、構成や意志決定などについて定めている。マラケシュ協定とはWTO設立協定であるのだが本文と4つの付属書によって構成されている。付属書1は貿易行為についてAからCに分割して定めている。付属書1Aの1(A)は主に物品に関する貿易協定でありGATTによって協定が締結されている。1(B)は農業に関して、1(C)は衛生植物検疫に関して、1(D)は繊維についてであるが既に終了している。1(E)は製品に対する仕様類の要件や国内規格作成過程の透明性、国内規格の国際的な整合に関して、1(F)は貿易に関する投資に関して、1(G)はアンチダンピングに関して、1(H)は関税評価に関して、1(I)は船積み前検査に関して、1(J)は原産地規則に関して、1(K)は輸入許可手続きに関して、1(L)は補助金に関して、1(M)は漁業補助金に関して、1(N)はセーフガードに関して、1(O)は貿易の円滑化に関してである。付属書1Bはサービスの貿易に関する一般協定(GATS協定)、付属書1Cは知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)である。
今回、規定が改定されるのは付属書1Bであり、サービス貿易に関する規定が対象となる。サービス提供に当たって必要とされる資格・免許の要件・手続等など不必要な規制を適用しなくすることが明記されている。その他には、サービスの提供に係る許可の取得等に関する情報や関係法令案の公表することで透明性を図る。合理的な期間内に審査を終了すること、申請拒否の場合は理由を通知すること、通年で申請を受理すること、インターネット経由での申請を可能とすること、公平な手続きと客観的で透明性を担保した基準に基づく規定など、法的な確実性や手続きの円滑化と透明性を向上するための規定の改定内容となっている。
サービス分野の貿易とは物流や通信、金融、技術開発など物品を対象としない貿易を意味する。インターネットの普及もあり国と国の取引の距離感は急速に縮まっている。それに伴いサービス分野での貿易も拡大している。データの越境の自由も進みつつある。EUの抵抗もあるがデジタル貿易に対する規定整備は順調に進んでいる。90にも上るWTO加盟国が電子商取引に関しての貿易的側面に係る事項に関する協議交渉を進めている。2022年のWTO閣僚会合の声明には「電子商取引キャパシティビルディング枠組み」が謳われた。2023年12月にはWTO 電子商取引共同声明イニシアティブ(JSI)で日本、オーストラリア及びシンガポールの共同議長国声明として電子認証、電子契約、透明性、公開データ、サイバーセキュリティ、開かれたインターネットアクセス、電子インボイス、電子的取引の枠組み、シングルウィンドウ、個人情報保護等に関する項目にて協議し進展を得て、今後は条文の収斂に向けて取り組むことが発表されている。日本が本協定の確認書に参加することで日本とEPAやFTAを締結する諸国を含めて多くの国の参加を促すことができる。個別に締結するEPA・FTAではサービス貿易に関する障壁は既に除去され自由化が進んでいる。サービス貿易の規則を共有する範囲に関して拡大することは各国の利害に直結する重要事項である。よって、日本が参加することは日本のみならず多くの国々にも共通する公益となる。今回の確認書は24年ぶりの改定であり、日本が率先して確認書を締結することは現在ある貿易秩序の維持にも資する。
本確認書はサービス貿易の費用を毎年1500億ドル以上削減することに繋がると期待されている。電気通信、コンピューターサービス、エンジニアリングおよび商業銀行といった分野がこの協定の恩恵を受けることになる。米国やEUは推進を図っている。
サービス分野の貿易には上記以外にも観光や教育、通信なども含まれる。時代の変遷を経て新しい分野での規定が必要となる。紛争に繋がらないように将来をも視野に入れて取引環境の整備にあたらないといけない。そういう意味でいえば本確認書の締結には時間がかかり過ぎている。よって、日本の確認書の締結には賛成するべきだと考える。
ちなみに余談ではあるが、本協定はいわゆるGATS協定であるが、日本国内で外国人による土地の取得を問題視する声が多く聞かれる。土地は国家そのものとも言えることから国民が懸念することは至極当然である。条約や協定で内国民待遇を相互に規定することが相互の平等を書くケースもある。その一例が外国人による土地の取得に関する規定の国家間の違いである。日本では特別に指定されたエリア以外での外国人の土地取得は可能である。一方、中国などは中国人も日本人も土地は取得できない。インドネシアでは外国人は土地の取得ができない。GATS協定によって内国民待遇を認めた場合は事項によっては相互の均衡を欠く。そうした場合、今となっては後の祭りかもしれないがネガティブリスト方式を導入して置けばよかったのである。ネガティブリスト方式は、一般義務として内国民待遇、最恵国待遇等の自由化義務を規律し、それらの例外とする措置や分野をリストにおいて明示的に示すものであり、例外分野として留保表に記載されないものは、すべて内国民待遇、最恵国待遇等の自由化を認める約束方式である。例外を設けないと協定締結国同士の国内法の相違によって不利益が生じかねない。GATS協定に関してはネガティブリストを導入せず日本に不利益が生じている国とは改正を目指すか、ドロップアンドビルドを試みるか何らかの対応が必要であろう。また、ネガティブリスト方式を導入している協定には総じて外国人(外国企業)の土地取得に関する制限を掲載するべきだと考える。
*サービス貿易に関してもWTOの確認書を締結するのみならず、付属書1BであるGATS協定に関して相手国によっては規定の更新を図り、ネガティブリスト方式の導入を目指すべきだと考えるがいかがか。
*日本の本確認書の締結後には合計約何カ国が締結することになると想定しているのか。
*FTA、EPAなどの台頭で包括的協定より国家間の個別協定が主流になっていると認識しているが、WTOでの協定の役割に関する政府の現状認識を問う。
*中国はWTO加盟国の中で未だに途上国として位置づけられており、優遇措置を受け続けていること問題である。WTOの制度の悪用のようにも思えるが政府の見解を問う。
参考
千九百九十四年四月十五日にマラケシュで作成された世界貿易機関を設立するマラケシュ協定のサービスの貿易に関する一般協定の日本国の特定の約束に係る表の改善に関する確認書
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100810363.pdf
WTO約束表の改善(サービス国内規制)に関する確認書 概要
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100810369.pdf
WTO 電子商取引共同声明イニシアティブ交渉の実質的妥結 西村・あさひ法律事務祖
サービス貿易 経産省
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/fukosei_boeki/report_2019/pdf/2019_03_02.pdf
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