NHK経営委員会委員の国会同意人事案について
NH系。
NHK経営委員会委員の国会同意人事案についてである。経営に関する基本方針、内部統制に関する体制の整備をはじめ毎年度の予算・事業計画、番組編集の基本計画などを決定し、役員の職務の執行を監督する機関として経営委員会が設置されている。経営委員会は会長以下の役員に対する目標管理・業績評価を行い、評価結果を処遇に反映させるなど執行部に対するガバナンスを強化している。議会に例えると稲葉会長や井上副会長らは執行部であり政府のような立場、経営委員はそれを監査し審議する議員のような立場にいる。よって、経営員会によるガバナンスとは執行部の経営を委員会が監視し審議する機能を発揮することにある。そして、委員には国民を代表しNHKの放送の質の向上、経営と放送の健全性、公共の福祉に資することを見極め追及することが求められる。経営委員の服務準則には「経営委員会委員は、放送が公正、不偏不党な立場に立って国民文化の向上と健全な民主主義の発達に資するとともに、国民に最大の効用と福祉とをもたらすべき使命を負うものであることを自覚して、誠実にその職責を果たさなければならない。」と規定されている。
直近(3月28日)の経営委員会の議事録を確認する。関連団体・理事長へのヒアリングについてという項目で子会社12社、関連団体6団体の経営状況などを聞き取り内容を公表している。その中で子会社はNHKに本体に利益の還元を求められていることから自主事業の伸長に努力していることが報告されている。このことから子会社を設立してNHK本体から事業を切り離すことで収益を確保するスキームを構築してきたことがわかる。NHK本体は税負担がないことから収益事業に傾注することは国民の理解を得られないし受信料を値下げする為の原資にされかねない。子会社を多数設立することで収益事業に注力し利益をプールしておくことも可能となる。NHK本体はあくまでも受信料の受け皿に過ぎない。日本最大のメガメディアであるNHK本体はP/L上は受信料収入が均衡すれば良いだけ。現実的には親子間取引によっていくらでも調整が可能である。持ち株会社や子会社、関連団体が多数存在していることによってNHK本体の経営の透明性や健全性を図るための足かせとなっている。
議事録では年度末の委員会であることから長々ともし予算が承認されなかったらという可能性としてはほぼゼロのことを数名の委員から質問されている。国家予算とNHK予算は別物である。政府予算案は年度末ギリギリまで国会での駆け引きが続く可能性はあるがNHK予算のような日切れ案件は例年通り賛成多数で可決する。もし時期が少し遅れても向こう3か月間は暫定予算が自動的に執行される。その程度のこともわかっていない委員はもはや経営委員会には役不足である。ちなみに委員会での委員の発言はほとんどなく「全く異論はありません」程度しか口を開かない。経営委員会委員のほとんどが地蔵である。
委員長(非常勤)は年報酬が619万円、委員長代行(非常勤)は557万円、委員(非常勤)は年495万円、常勤委員は2206万円である。会議の開催は年22回ほどであるから凄まじい高額報酬である。国会同意人に係る諮問機関は多数あるがダントツに高額な報酬を得られるのがNHK経営員会である。
非常勤での二期目の再任案である榊原一夫氏は委員長代理で会のナンバー2である。東大法学部を卒業し大阪高検検事長を務めたが長官ポストレースに敗れて辞職。大手法律事務所の顧問に就任しつつ兼務としてNHK経営委員会委員も務めて来た。企業での就労経験も経営者としての事業実績もない。検察一筋の人物であることから精通しているのは刑事司法に限られる。昨年秋には三井住友信託銀行の元社員によるインサイダー取引疑いに関して設けられた社内調査委員会の委員長に任命されている。日野自動車のエンジン不正認証に係る調査委員会の委員長にも起用された。東京歯科大の監査や高砂熱学工業の役員にも就いている。榊原氏が警察や裁判所に睨みが効くであろうことから守護神として活用しているのかどうかは定かではないが、榊原氏の名前をお飾りとして利用したい企業は一定数ある。元大阪高検の検事長という肩書は大企業の不正が発覚した際の火消し役として効果を発揮する。例えば、三井住友信託銀行の元行員によるインサイダー取引の調査委員会に関しては、榊原氏はそもそも同社の社会取締役である。同社関係者が調査委員会の会長に就いてしまうと調査の客観性が失われる。榊原氏は利害関係者であることを承知の上で起用し、刑事裁判や金融庁などに暗示的に問題を収拾する効果を期待するのであろう。NHK経営委員会に榊原氏を置いておくことの意味はガバナンスの強化というよりもむしろ刑事的な問題が発生した際の守護神としての効能を期待してのことだと考える。本来、榊原氏は顧問や相談役で十分だと思うが法曹界では上層階の一人であることは間違いない。榊原氏の正義感を知らずして否定するのも遺憾であることから榊原一夫氏の非常勤での再任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での再任案である大草透氏は東京大学法学部を卒業後、三菱地所に勤務し、平成25年から令和3年まで8年間にわたり同社の役員を務めた。令和4年からは常勤のNHK経営委員会の委員を務めてきたが今回は非常勤での再任案となる。三菱地所では経理畑を歩んでおりボードメンバーの一員でもあったことから企業の財務運営には長けているはずである。気になるのは常勤から非常勤に変更となった理由がわからないこと。会議へは全て出席していることから体調不良ではないだろう。とすれば他に兼業先が見つかったのではないかと思われるがそれも結構なことである。NHK経営委員会は実質的に経営に影響を及ぼすほどの口出しや介入はしていない。大草氏が手持無沙汰であったとしても頷ける。大草透氏が同経営委員会の委員には適任であることに違いなく非常勤での再任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での新任案である岡田美弥子氏は北九州大学商学部卒、神戸大学大学院経営学研究科を卒業し、北海道大学大学院経済学研究院教授である。北海道大学学長補佐を務め乍ら北海道瓦斯の社外取締役でもある。北海道テレビの放送審査会委員長を令和7年3月まで務めていた。コンテンツ産業(漫画)の研究家で経営学が専門。マンガとビジネスを繋げた生成論を主にしている。企業に勤務経験がないこと、漫画という特定分野でのアプローチに限定される研究に終始していることなどが懸念材料であるが、経営学という大枠には属することから一定の役割を果たせることが期待できる。よって、岡田美弥子氏の非常勤での新任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での再任案である藤本雅彦氏は東北大学教育学部を卒業した後にリクルートに就職、平成16年から東北大学に勤務し、現在は東北大学名誉教授である。中小企業基盤整備機構、宮城地方労働審議会、東北財務局、宮城県地域職業能力開発促進協議会、フラグシップモデル企業育成事業運営委員会、みやぎ人財活躍推進プロジェクト協議会、仙台市中小企業活性化会議、仙台市広域集客型産業立地促進助成金交付選定事業選定委員会など自治体関係の数々の諮問会議のメンバーを歴任している。こういっては申し訳ないのだが、かなり使い勝手の良い学者だったのだろう。本業である東北大学では就職してから4年目で学長特任補佐になっていることから凡そ察しがつくだろう。リクルート出身者にはこのようなポスト志向の高い人物が多いように感じる。専門は一応経営学ではあるがリクルート時代に得た知識を焼き直した人材育成論が主戦場である。リクルートは出稿者と購読者の双方から代金を徴収するハイブリッドビジネスモデルで成長した企業である。どっちにも良い顔が染みついている印象の企業であるが多くの分野で情報提供に関する革命を起こしたことも事実。昭和58年にリクルートに入社しているがこの頃はまだ就職情報誌の会社であるイメージが強かった。カーセンサーやじゃらんやゼクシィを発行したのはもっと後である。そういう意味では藤本氏は情報革命期の一端を担っていた人物なのかもしれない。いずれにせよ、藤本氏は実務と学術研究の双方を経験した人物として本委員会の委員には適任であろう。よって、藤本雅彦氏の非常勤での再任案には賛成するべきだと考える。
常勤での新任案である田渕正朗氏は京都大学経済学部を卒業後、住友商事に入社し自動車事業畑を歩き代表取締役として常務、専務、社長付を経験し退任。IT大手のSCSKの代表取締役会長に令和4年まで就いていた。現職はない。田畑氏は「ラーメンからロボットまで」の時代の総合商社が総合事業会社に変革する過渡期を経験している。多くの事業会社を買収しポジションが良くなったら売却する現在の商社モデルを構築した一人でもある。メーカーのサポート役から主役に躍り出るための素地を敷いたことが現在の総合商社の盛隆を生んだと言える。SCSK会長職の退任から3年が経過していることが多少懸念されるが経験豊富な経営者であり、NHKの規模にも劣らない経営実績を残している人物である。NHKの既得権益を打ち破るような経営指針を提示する活躍を期待したい。田渕正朗氏の常勤での新任案には賛成するべきだと考える。
参考
日本放送協会第1467回経営委員会議事録(2025年3月25日開催分)
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