特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法の期限延長案の承認について
ふね、あぶね~。
特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法の期限に関して2年間の延長が承認されることについてである。特定船舶入港禁止法は2004年6月に施行されて以来、延長を繰り返して今日まで継続している。本法は北朝鮮に対する経済制裁の一環として行われている。第三条において「我が国の平和及び安全の維持のため特に必要があると認めるときは、閣議において、期間を定めて、特定船舶について、本邦の港への入港を禁止することを決定することができる。」としている。本法を発動したり、一部を実施したり、全部または一部を修了する場合は閣議決定のみ実施できるが、特定船舶の入港の禁止の実施および実施条件の変更は、閣議決定および内閣告示の後に国会の承認を得る必要がある。本法の期限を延長することから国会の承認が必要となっている。北朝鮮による核実験やミサイル発射が行われないという確証は持てないことから本法の役割は継続しているものと考えて延長案には賛成するべきだと考える。
1998年以降、北朝鮮による核開発や核実験が世界的な問題となっていた。1992年のジュネーブ合意以降、北朝鮮は核兵器に関する国際的な約束をアメリカと8回行っているがことごとく北朝鮮は約束を履行していない。北朝鮮は2005年のアメリカとの合意もテポドンミサイル発射と2006年の初の核実験で不履行している。北朝鮮は2003年1月10日、アメリカの軍事的脅威を理由に挙げ、核拡散防止条約第十条を根拠にNPTからの脱退を通告した。その後、2005年2月10日、公式に核兵器の保有宣言を行い、2006年10月9日に地下核実験を行ったことから当条約上で定義された「核兵器国」以外の事実上の核保有国となった。北朝鮮がアメリカと繰り返し協議を行いその都度米朝合意を行ってきたのは核開発を行う時間稼ぎをしていたに過ぎないのではないか。北朝鮮には最初から非核化に応じる意思は無かったはずである。
日本は経済制裁を発動するだけではなく、本法が施行される時期には北朝鮮の核問題の解決のために関係国外交当局の局長級が直接協議を行う6ヶ国会議に参加していた。6ヶ国とは日本とアメリカ、ロシア、中国、韓国、北朝鮮である。2003年から2007年まで6回開催されている。2007年の第5回会合では次のような共同文書が発表された。
1. 北朝鮮が60日以内に寧辺の核関連施設の停止および封印を行い、IAEAによる監視を受け入れる。
2. 北朝鮮は放棄の対象となる核開発計画について他の五者と協議する。他の5ヶ国は見返りの緊急エネルギー支援として重油5万tを支援する。(日本は拉致問題の解決を条件として保留)
3. 北朝鮮が施設を無力化することで95万トンの重油に相当する規模を限度とする経済・エネルギー・人道支援を行う。
4. アメリカと北朝鮮は国交正常化のための協議を始めると共に、アメリカは北朝鮮のテロ支援国家の指定解除や対敵通商法の適用終了の作業を進める。
5. 日本と北朝鮮は国交正常化のための協議を始める。
6. 「朝鮮半島の非核化(議長:中国)」「経済・エネルギー支援(議長:韓国)」「日朝関係正常化(議長:日本・北朝鮮)」「米朝関係正常化(議長国:アメリカ・北朝鮮)」「北東アジアの安保協力(議長国:ロシア)」の5つの作業部会を設置する。
7. 初期段階の措置が実施された後、六者による外相級閣僚会議を行う。
上記の6ヶ国の合意によって一応の前進を見るはずであったが北朝鮮が合意内容履行することはなかった。国際連合安全保障理事会は、2009年4月に人口衛星と主張するロケット(ミサイル)発射を安保理決議違反として北朝鮮を批難する議長声明を全会一致で採択した。北朝鮮は国連安全保障理事会の議長声明に反発し、核兵器開発の再開と六ヶ国会合からの離脱を表明する声明を発表した。その翌月となる2009年5月に北朝鮮は2度目となる核実験を実施した。2012年12月に北朝鮮の金正日氏が亡くなり金正恩氏が後継者となったが、恫喝外交は終息するどころか益々勢いを増すこととなった。
本法の最初の発動は2006年7月のテポドン2号が7発も発射され日本海に着弾したことによってである。当初の法では入港禁止期間は6か月であった。2006年10月には北朝鮮による2回目の核実験が実施されたことを受けて改めて6か月の入港禁止を決定した。その後は入港禁止期間の延長を繰り返している。当初、6か月ごとの延長であったが2009年に1年ごとに、2012年には2年ごとの延長を可能とした改正を行った。北朝鮮籍もしくは北朝鮮に入港歴のある船舶の入港禁止措置は繰り返し延長され現在まで継続している。
北朝鮮への経済制裁が継続されている理由として北朝鮮による核実験の実施と弾道ミサイルの発射が止まないことにある。金正日時代には核実験2回、弾道ミサイル発射は通算16回であったが、金正恩政権となってからは現在に至る12年間で核実験4回、弾道ミサイルは201回も発射している。北朝鮮は弾道ミサイルを人工衛星だと主張するがミサイル技術を利用した人工衛星の発射は弾道ミサイルを発射することと相違はないことから詭弁である。日本政府が継続的な北朝鮮による威嚇行為を受けて本法での経済措置を解除することなく延長して継続してきたことは当然と言える。
この間、北朝鮮のミサイル技術は急速な性能の向上を見せている。2023年から発射実験を繰り返す「火星18号」と2024年10月に発射事例のある「火星19号」は大陸間弾道ミサイルとして射程距離が15000キロメートル以上としており、アメリカ本土を確実に捉えることができる兵器の開発に成功していると考えられる。その他にも超音速ミサイルや潜水艦発射ミサイル、戦略巡航ミサイルの保有も進めているとみられる。潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験にも成功している。2023年には戦術核攻撃潜水艦を建造し弾道ミサイルによる打撃能力を強化している。機動的な核攻撃を可能としたことから北朝鮮の弾道ミサイルを使用した核攻撃の射程距離はアメリカやヨーロッパ全土に及んでいることはほぼ間違いない。
日本の対北朝鮮経済制裁はもちろん船舶に限ったことではない。北朝鮮に対して制裁を科す国連安保理決議は2006年から2017年にかけての11年間で11本が採択されている。日本は安保理決議に基づいて北朝鮮に対して広範囲な制裁を行っている。
*日本国内において収入を得る北朝鮮「国民」を北朝鮮に送還すること
*北朝鮮国民の個人及びその家族の構成員の入国・領域通過禁止
*輸出入の禁止
*安保理又は制裁委員会により指定された個人又は団体の資産凍結
*北朝鮮金融機関の本邦における支店開設等の原則全面禁止と日本の金融機関の北朝鮮での支店等の開設禁止
*北朝鮮の団体及び個人との合弁企業等の開設・維持・運営の禁止
*北朝鮮関連の貨物の自国領域内における検査の実施、禁制品の押収・処分
*禁制品を積載していると信じる合理的根拠がある航空機の離着陸・上空通過の禁止
*北朝鮮籍船舶に対する又は北朝鮮籍船舶からの船舶間の積替え(「瀬取り」)を容易にし、又は関与することの禁止
である。2014年のストックホルムで行われた日朝政府間協議で拉致被害者の調査再開の約束と引き換えに経済制裁の一部を解除することに合意したが、2016年に北朝鮮が核実験や弾道ミサイルの発射を強行したことから経済制裁は再開されている。経済制裁には一定の効果はある。特に北朝鮮の外貨獲得は急速に減少した。
北朝鮮とロシアとの関係はウクライナ紛争を契機に親密さを増しつつある。金正恩氏は北朝鮮兵をロシアの援軍として派兵したことを認めている。ウクライナ当局によると約1万4千人の北朝鮮兵がロシア兵と共にクルスク州で戦っているという。これは2024年10月にロシアのプーチン大統領が北朝鮮を訪問した際に締結した戦略的パートナーシップ条約を実践したことと言える。条約ではどちらかの国が侵攻された場合は相互に助け合うとされている。このことから朝鮮半島に紛争が起きればロシアが介入する可能性が高い。
一方、北朝鮮と中国との関係は悪化している模様。中国が北朝鮮の密輸行為に対する取り締まりを大々的に強化していることに端を発している。金正恩氏は中国を宿敵と表し反感を露わにしている。北朝鮮によるロシアへの急接近が中国と北朝鮮の関係に影響を及ぼしていることも考えられる。
以上のように東アジアの情勢は不安定である。トランプ政権が北朝鮮とどのように接するかにも注目される。日本は北朝鮮を取り巻く政界情勢を注視しつつも独自の対北朝鮮戦略を構築するべき時期に来ている。拉致問題は進展せず、被害者家族の高齢化は進んでいる。残された時間は多くない。日本外交の救世主を求む。
*制裁を形骸化させかねない瀬取り行為に対する取り締まりをどのようにおこなっているのか。その効果や実績はどうか。
*拉致問題解決に向けての現在の具体的取り組みついて明らかにされたし。
*北朝鮮の軍事力に対する我が国の備えについて。
*6カ国協議の再開はありえないのか。
参考
特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法 Wiki
本邦港への入港が禁止されている特定船舶 日本船主協会
https://www.jsanet.or.jp/sanctions/pdf/nk-02.pdf
北朝鮮による核・弾道ミサイル開発について 防衛省
https://www.mod.go.jp/j/surround/pdf/dprk_bm_b_202501.pdf
北朝鮮、ロシア派兵初めて認める 金氏「正義のために戦った英雄」 ロイター
https://jp.reuters.com/world/ukraine/OQED2LSPEZJZFIRELF7IL5DEPM-2025-04-27/
北朝鮮核問題 Wiki
プーチン大統領と金総書記、包括戦略条約に署名 「侵攻」に対し相互支援 BBC
https://www.bbc.com/japanese/articles/c199x7zxe90o
金正恩委員長「中国は宿敵」…韓国も出席した中国建軍行事に北朝鮮は使節派遣せず
中央日報
https://japanese.joins.com/JArticle/323954?sectcode=500&servcode=500
法案
特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法第5条第1項の規定に基づき、特 定船舶の入港禁止の実施につき国会の承認を求めるの件
https://drive.google.com/file/d/1GtlKK7OZeleRTMHS6Yr7U6HLw4W-DUt4/view?usp=drive_link
外国為替及び外国貿易法第10条第2項の規定に基づき、北朝鮮を仕向地 とする貨物の輸出及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物の輸入につ き承認義務を課する等の措置を講じたことについて国会の承認を求めるの 件
https://drive.google.com/file/d/1rAMhPHfeZxho-tz-LSHolbiRyBQ7yEPk/view?usp=drive_link
0コメント