国政選挙執行経費基準法の改正法案について

かっぱえび選挙。

 国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律が改正される。同法は選挙執行経費基準法とも呼ばれる。選挙自体の執行に関わる規定は公職選挙法に定められているが、国会議員を選出する選挙に関わる経費を国が負担する基準やその上限額については選挙執行経費基準法によって規定される。定量的な成果を示して行政事業の評価を行う性質のものではなく法律に基づいて執行されるものである。同法は令和5年に行われた衆議院議員選挙に備えて改正された現行法が施行されたばかりだ。今回の改正は令和7年7月に行われる参議院議員選挙に対する準備の一環である。

 同法で定める執行経費は下記の21種類にも上る。

一 投票所経費

二 共通投票所経費

三 期日前投票所経費

四 開票所経費

五 選挙会経費及び選挙分会経費

六 選挙公報発行費

七 候補者氏名等掲示費

八 ポスター掲示場費

九 演説会施設公営費

十 新聞広告公営費

十一 政見放送公営費及び経歴放送公営費

十二 選挙運動用自動車使用公営費

十三 通常葉書作成公営費

十四 ビラ作成公営費

十五 選挙事務所の立札及び看板の類作成公営費

十六 選挙運動用自動車又は船舶の立札及び看板の類作成公営費

十七 ポスター作成公営費

十八 個人演説会場の立札及び看板の類作成公営費

十九 事務費

二十 不在者投票特別経費

二十一 在外選挙特別経費

である。経費の多寡は該当する選挙区の選挙人の人数によって区分し規定されている。各項目の経費には人件費も含まれている。選挙に関わる労務はよほどのことがない限り自治体の公務員がそれにあたる。公務員が従事した方が安く上がったり要員の確保がしやすい。例えば期日前投票の会場スタッフの場合、平日は公務員だと残業代だけで済むが民間人だとまる一日分の日当が必要になる。要員を確保するには民間人だと求人作業や求人費用が必要になるが公務員の場合はイントラのメールや回覧で事足りる。では、公務員自身は選挙事務をすることについてどう思っているのか。多くの公務員は若いころは「いいお小遣いになる」と思い積極的に応じていたが、ベテランになり給与も増えてくると「割に合わない」と思うようになるようだ。だが、管理職になると選挙事務従事は必須業務のようになる。現場責任者が必要であるからだ。選挙事務は当日投票事務、当日開票事務、期日前投票事務の大きく分けて3つ。

 当日投票事務は会場内外の案内や誘導、選挙権の確認、投票用紙の交付、投票箱の監視、要介助者の介助などである。選挙日は日曜であることが多いことから丸一日分の日当に特別手当が付く。勤務時間は長いが終了時間が決まっていて予定が組みやすい。人数も多く勤務時間が長いだけで楽できる。半面、朝が早く拘束時間も長いことから嫌う人もいる。当日開票事務は投票箱の投票用紙を集計する作業を負う。票を数えるのは機械作業がほとんどである。機械作業の結果を集計したり撥ねられた投票用紙を管理する。最短2時間で終わることもあれば日付が変わる深夜までかかることもある。早く終われば高単価な報酬となるが長引くば長引くだけ単価は下がっていく。次の日も朝から通常業務があることから報酬が良くないとやる気が出ないという人も多い。期日前投票事務は投票日前日まで数日間に渡る業務である。公務員の場合は時間外手当しか出ないので報酬は期待できない。当日投票事務と違って貴重な休日を削られることはない。業務負担は軽いが通常業務を並行して行うことはできないので通常の仕事が滞留してしまう。

 報酬は各自治体によって若干違うが、当日投票事務の報酬は3.5万円程度、当日開票事務は1.5万円程度のケースが多い。公務員としての通常の報酬とは別途受け取れるのだから悪くないのではないか。本法律で規定されている金額は期日前投票の人件費3万4千円以上、残業代時給2千6百円となっているし、選挙日の人件費単価は5万8千円以上と定められている。だが、公務員を動員する以上、実質的には規定よりも少なくなっているケースが多い。

 Buzz Feed Newsの記事によると「昔から、金額はずっと変わっていません。従事者を募集する以上、投開票日の翌日以降の職務への影響もあるので、納得できる手当が必要です」という声が選挙事務担当者からは上がっているという。だが、実際には報酬の規定は頻繁に更新されている。時給換算すると6000円になるケースもあれば2500円程度にとどまることもある。一般の短期アルバイトと比較すると、低すぎる報酬の設定ではない。機械化が進めば時短にも繋がるし要員も減らせる。コストの削減は一層進むはずである。とはいえ、公務員は積極的に参加して取り組むべきではないのか。選挙は民主主義の根幹であるし、行政を政治は直接的で密接な関わりを持つ。選挙事務を避ける公務員がいたとすればその者は仕事に消極であり組織や社会への貢献意欲が低いと言えなくもない。公務員の半数以上が選挙事務をやりたくないと思っているということに危機感を抱く。公務員の意識改革、人事評価制度の見直しなどを行うべきである。仕事に対する公務員の意識が報酬との見合いとなっていてはいけない。公務員の使命感を再認識するべきである。

 今後の選挙事務はDX化が加速して少人数、高速化、正確性を兼ね備えた効率化が進むだろう。前述の21ある事務作業のうち多くが機械化できることは明らかである。国はその為の投資を惜しまなければ将来的には必要とする人数も予算も半減することが可能だと思われる。もっと踏み込めば投票のほとんどが電子投票となる時代が来る可能性がある。マイナカードなど行政のDX化がますます進めば決して不可能ではないはずだ。近い将来、行政分野では人間公務員とAI公務員が共存する時代なるであろう。そうならないとこの国の行政は大変なことになる。業務の効率化を急速に進めないと日本の国力はますます衰える。まずはAIを身近な存在とするためにAIエンジニアとの連携を促進しなければならない。


*選挙の執行経費の項目が多すぎる。選挙公報の配布があるのだから新聞広告は不要、ビラかハガキか候補者が選択しどちらか一つで十分。ポスター掲示板をデジタルサイネージに変更すれば掲示板費用とポスター印刷費は不要。経費の額を頻繁に見直すのではなく、経費の項目の必要性や改善を検討するべきではないか。

*投票所で記入する投票権をマークシート式にすれば誤字などによる無効票を減らせると考える。いつもでも記名に拘る必要はないのはないか。


参考

国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律の一部を改正する法律案概要

https://www.soumu.go.jp/main_content/000991760.pdf

国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律の一部を改正する法律案要綱

https://www.soumu.go.jp/main_content/000991761.pdf

国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律の一部を改正する法律案新旧参照条文

https://www.soumu.go.jp/main_content/000991763.pdf

国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律

https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000179/

国会議員の選挙等の執行経費の交付額の算定について(H22) 会計検査院

https://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/22/pdf/220908_youshi_1.pdf

国会議員の選挙等の執行経費の適正化について(H24) 会計検査院

https://report.jbaudit.go.jp/org/h24/2012-h24-0098-0.htm

公務員の選挙事務の実情 元公務員てつ 公務員コンパス

https://koumuin-life.com/election/#index_id9

選挙の投開票作業の手当は高い? 実は自治体でバラバラ、時給換算で6000円の例も

Buzz Feed News

https://www.buzzfeed.com/jp/kensukeseya/election-office-tokyo

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