国連公海等生物多様性協定(BBNJ協定)の承認について
海だぁ、うれSEA(⌒∇⌒)
国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する国連海洋法条約の下での協定、通称BBNJ協定についてである。本協定は2024年にイタリアで開催されたG7において協定の速やかな批准等を追求し、迅速な発効と実施に貢献することを確認し合意している。日本は2023年9月に署名している。本協定の締結を2025年6月の国連海洋会議まで行いたい政府の意向から国会で諮られる。締結した国が60か国を超えると120日後に自動発効する。現在の署名国は108か国に上っていることから発効する可能性は比較的高い。領海とEEZ内については生物多様性条約(CBD)が1992年に既に採択されている。本協定はそれ以外に公海についての海洋生物の多様性について規定するものである。公海とは国家管轄権外区域(ABNJ)と呼ばれる海域である。ABNJは原則として「公海自由の原則」があり、国連海洋法条約では何も定められていない。よって、誰も管理しないし何も規制されない。ただし、海底鉱物資源は例外である。これは人類共通の財産であることから利益は各国に平等に分配されることになっている。海底鉱物資源の開発の管理は国際海底機構が行い公海自由の原則の一部は制限されている。鉱物のみならず海洋生物について保全しつつ利益を共有する為に規定するのが本協定(BBNJ協定)である。
協定のコンテンツは大きく分けて4つの柱からなる。
1. 海洋生物の遺伝子)から得られる利益の配分については締約国会議において利益配分方法を決定する。
2. 海洋生物多様性の保全と持続可能な利用のために必要な措置をとる区域型管理ツールを公海及び深海底へ導入する。
3. 公海や深海底の海洋環境に影響を与える可能性のある活動についての環境影響評価の手続きを規定する。
4. 途上国が本条約を実施するために必要な能力構築や海洋技術の移転方法を規定する。
以上の法的拘束力を持つ4項目である。御覧の通り海洋生物資源を保全する為の条項はなく、むしろ海洋生物資源を利用する為の規定となっている。
条約の発効に向けて取り纏めに動いたのがシンガポールである。国連で中南米やアフリカを中心としたグループであるG77プラス中国の枠組みがありシンガポールはその一員である。一人当たりのGDPは世界4位であるシンガポールは既に列記とした先進国である。そのかつての途上国であり、現在は世界有数の先進国であるシンガポールが旗振り役となった意義は大きく主要国のほとんどが署名するに至った。
BBNJ協定のベースになっているのは生物多様性条約(CBD)である。1992年の地球サミットで採択された。CBDによって生物多様性の保全と生物多様性がもたらす便益の衡平な配分をどのように折り合いをつけてルールを策定するかが問題提起されたが、2010年のCOP10による名古屋議定書で衡平な便益の配分に関するルールが策定された。議定書では管轄海域の10%を海洋保護区に指定して管理することが決められた。2015年に日本のEEZ内の生物多様性の保全上重要な海域(EBSA)が選定され公表された。すでにほとんどが海洋保護区となっていたため、名古屋議定書の達成ためには沖合域に海洋保護区を指定する必要があった。その為、「沖合域における海洋保護区の設定のための自然環境保全法改正法」を制定し沖合域を保護区に指定できるようにした。2020年12月に小笠原海溝周辺海域等の本州南側海域が新たに海洋保護区に指定することで10.3%となり目標を達成した。2014年のダボス会議では海洋に関する5つの危機が報告された。1. 魚介類の乱獲、2. 沿岸環境の汚染、3. 生息地の破壊、4. 地球温暖化、5. 海洋酸性化、の5つである。2015年にドイツで開催されたG7で5つの危機について話し合われ、プラスチックごみの急増による人の健康への影響について国際的に協力していくことで合意した。こうした海洋問題はG7で繰り返し取り上げられ2021年にはイギリスが議長国となりSDGSに絡めて多くの目標設定を取りまとめた。具体的な目標としては、海洋ゴミなどの海洋汚染を防止・削減(2025年)、海洋及び沿岸の生態系の回復(2020年)、海洋酸性化の影響を最小限化、過剰漁業やIUU※漁業の撲滅(2020年)、沿岸域及び海域の10%を保全(2020年)、過剰漁業やIUU漁業につながる漁業補助金を禁止(2020年)、SIDS・LDCs※の海洋資源利用による経済的便益の増大(2030年)である。海洋ごみのうち特にプラスチックごみを問題としている。プラスチックごみの削減は当初2050年を目標としていたが2030年に変更し前倒しされている。
国連海洋法条約は「公海自由の原則」が定められている。よってCBDは国家管轄権のある海域だけが管理の対象がなる。国家管理圏以外の海域は広大であり何の保全もしないわけにはいかないということで設けられたのがBBNJ協定である。だが、公海はとてつもなく広大であるから管理したり保全するには膨大な費用と労力を要する。その莫大な費用を負担させられるとなればBBNJ協定を締結する国は限られてしまう。そうした事情からBBNJ協定は保全よりもその生物多様性から生じる便益をどう取り扱うかという規定を重視する協定となった。生物の遺伝資源も海底鉱物資源と同様に独占的権利を認める人類共通の財産の特例とし、そこから生じる便益は締約国に衡平に配分すべきであるという見解に行きつく。そこで得られる便益をどのように各国に配分するかという議論が難航してきた。事業者が公海に存在する生物を持ち出す場合は提供国の同意を得る必要がある。同意を得る際にはそこから便益を得られた場合にはどのように分配するのかを示す相互の同意を結ばなければならない。先進国にとっては途上国に利益を分配しなければならないのならEEZ内でしか事業に取り掛からなくなる。そうなると途上国には期待した利益の分配が為されなくなる可能性が高いことから基金を作って拠出金を出すように主張しはじめていた。先進国は実際の利益が出るまでの間、先進国が負担する拠出金の50%を上限に特別基金に金銭を拠出することで途上国との間で合意した。利益が出始めた時に改めて分配金については協議することになった。名古屋議定書の後に開催された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では2030年までに海域の30%を海洋保護区または同等の管理機能を有する区域にすることが求められた。また、ある企業が沿岸国のEEZで何らかの活動を行う時には環境汚染に関して沿岸国が環境影響評価を行わなければならなくなった。汚染物質をABNJに流してしまうという悪質な行為は出来なくなる。このことは環境の保全に資する。
現在、BBNJ協定の署名国は108か国、締結国は12カ国となっている。状況的には締結国が60か国を超えて発効するものだと想定する。「公海自由の原則」によって生物資源を自由に乱獲することは経済的にも技術的にも恵まれている先進国に富が集中する可能性が高い。そのことが人類に不和を生むことは火を見るよりも明らかである。一定の国際ルールを作ることは人類にとって有益である。ただ、公海上の生物資源を基にした事業の先行きはまだ不安定である。新しい技術を生むと新しい規定が必要となる。現在、議論されているBBNJ協定が有効であるのは現在から幾ばくかの将来に限られることになるかもしれない。これまでの環境保全ルールや実施目標の期限は繰り返し更新され、短縮されてきた。BBNJ協定も同様に改定を繰り返しながら存在する可能性もある。とはいえ、公海が無秩序な状況のままであると諍いの契機になりかねない。遠い大航海時代から今に至る道中で失われた命は計り知れない。お臣心に適い対極に附くべし。
*BBNJ協定の締結にあたり日本が基金に拠出しなければならない額はどのくらいを想定しているのか。
*海洋保護区を現在の10%から30%に広げた場合には現在よりどのくらい多くの費用が管理に必要となると考えているのか。
*60か国の締結に達すると考えているのか。その根拠は。
*海洋保護区の拡大により日本が恩恵を受けることができるであろう海洋資源の開発は想定されているか。それはどのようなものなのか。
*環境アセスメントとBBNJ協定による開発は互いに障壁となってしまう概念ではないのか。その間の折り合いをどのようにつけるのか、足枷とならないようにするにはどうすればよいと考えているのか政府の見解を伺う。
参考
海洋法に関する国際連合条約に基づくいずれの国の管轄にも属さない区域における海洋の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する協定(略称:国連公海等生物多様性協定(BBNJ協定)) 外務省
条約
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100810405.pdf
説明書
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100810408.pdf
概要
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100810409.pdf
BBNJ Wiki
https://ja.wikipedia.org/wiki/BBNJ
国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)のための枠組みに関する一考察 佐々木浩子
https://aslp.law.keio.ac.jp/pdf/AN00224504-20210128-0131.pdf
国家管轄権外区域の生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国連海洋法条約の下での協定(通称BBNJ協定)の意義と今後の課題 平和政策研究所
https://ippjapan.org/archives/8581
海洋保全への挑戦 ファディ・ジャミール
BBNJ 協定の採択(海洋における環境影響評価)と環境影響評価の紛争類型 渡邉典和
https://www.nishimura.com/sites/default/files/newsletters/file/environmental_law_241112_ja.pdf
公海:国際水域の未知の生物多様性をどう守るか? TARA
https://jp.fondationtaraocean.org/news-politics/2202_highsea/
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