環境影響評価法の一部を改正する法律案について

かんぴょうアセスメント・・・。

 環境影響評価法の一部を改正する法律案についてである。通称は環境アセスメント法と呼ばれる。環境影響評価法は事業者自らが事業の実施前に環境保全のための検討をし、よりよい事業計画を作り上げていくためのプロセスを定めた手続法とされている。大規模公共事業など環境に大きな影響を及ぼすおそれのある事業について、その事業を実施する事業者自らが環境への影響を予測評価し、その結果に基づいて事業を中止したり、事業の内容を環境に配慮したものに変更する環境アセスメントについての手続きを定めた法律である。公共事業のみならず民間事業者にも適用される。

 法第二条に「環境影響評価とは事業の実施が環境に及ぼす影響について環境の構成要素に係る項目ごとに調査、予測、評価を行い、その事業の環境保全の措置を検討し、環境影響を総合的に評価すること」と定義されている。環境アセスメントのスキームは6段階に分かれる。まず、実施者は事業に係る計画の立案の段階において環境の保全のために配慮すべき事項について検討を行う配慮書を作成する。次にその事業の許認可を行う行政機関に事業の実施区域や概要の届出を行い、許認可権者は都道府県知事に意見を聴き届出から60日以内に環境アセスメントを行うかどうか判定を行うというスクリーニングを経る。判定を得ると対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法等当該事業の環境アセスメントの方法を記す方法書を作成し関係都道府県知事および関係市町村長に送付する。都道府県知事は関係市町村の意見を聞いて環境保全の見地から意見をする。その後、事業者は対象事業に係る環境影響評価を行い、その環境影響評価結果等について記載した準備書を作成し関係都道府県知事および関係市町村長へ準備書および要約書を送付する。1カ月の縦覧を経て都道府県知事は関係市町村の意見を聞いて環境保全の見地から再び意見をすることができる。事業者は修正が必要であると認めるときは修正の区分に応じて措置を講じて評価書を作成し許認可等権者に送付する。許認可等権者は環境大臣の意見を求めることができ、環境大臣の意見を勘案し事業者へ意見を書面で述べることが出来る。事業者は工事・事業を実施後に調査を行い環境保全対策等の状況をまとめた報告書を作成し公表する。これが一連のアセス手続きである。

 環境アセスメントの対象となる事業は、高速道路、ダム、新幹線、鉄道、飛行場、発電所、廃棄物処分場、埋立・干拓、土地区画整理事業、新住宅市街地開発事業、工業団地、新都市基盤整備、流通団地、宅地の造成の13事業である。

 さて、環境影響評価法は施行されて四半世紀が経過する。アセス手続きの対象となった事業の中で建替えや大規模修繕の時期を迎えるものも出て来た。現行法には建替えに関する規定はないことから新規事業者と同様の手続きを更新する事業者に課している状況にある。これを本法案で適正な環境配慮は維持しつつ合理化することをできるように改正する。配慮書は建替位置に大きな変化がなければ不要とする。ただし、新設物の環境配慮の内容は明らかにしなければならない。環境大臣へのアセス図書の提出は必要。環境大臣等は既存事業に伴う懸念事項を含め建替配慮書に対する意見を述べることが可能である。アセス図書は事業者の同意を得ることでその後も継続して公開される。要するに改正後は建替えの場合は既存事業の調査結果を反映するだけで事業実施区域での新たなアセスメント調査をする必要はなくなる。配慮書は建替配慮書と別に設定され既存の調査結果を踏まえることで足りる。

 環境アセスメントには膨大な時間と多額の費用がかかる。手続きも煩雑で容易ではない。そもそも環境への影響とは事業の着工によって明らかになるものであり予測でしかない。短期間の予測ならまだしも長期的な影響など容易く予測できるはずもない。あくまでも環境リスクを予測することで環境問題の予防や環境保全に繋げるためのもの。予防策を講じる為のツールに過ぎない。

 環境調査を軽減することは悪いことではない。だが、同時にAIやビッグデータの活用により調査の制度もスピードも内容も進化していくに違いない。更なる年月の経過を経て環境アセスメントの時間的な負担も費用的な負担も大幅に改善されることが見込まれる。建替え時の軽減措置はそれまでの時限的な措置であっても良いのかもしれない。重要なのは環境への悪影響を事業者が提言できているかどうかである。取組への姿勢や努力は事業者によって違うだろうが、少なからずの効果を生む必要がある。最小限の取組であろうが最大限の取組であろうが結果的にもたらされる効果を重視しなければならない。

 最後に諸外国の取組を紹介する。EUは欧州委員会が定めた環境影響アセスメント指令に基づいて実施されている。基本方針は未然防止に重点を置いていることである。事業認可前に環境への影響を特定し評価する。アメリカは世界で最初に国家環境政策法を導入した。政策、計画、事業に対し必要な場合においては環境アセスメントを実施することが義務付けられている。アメリカの影響を受けて同様の制度がオーストラリア、タイ、フランス、フィリピンなど各国に設けられた。日本では1993年に環境基本法が制定された後、1997年に環境アセスメント法が成立した。国際的な関係する枠組みにはワシントン条約、バーゼル条約、ストックホルム条約、京都議定書、パリ協定などがある。日本のアセス制度が誕生して約40年が経過した。これまでの取組が環境問題に少なからず貢献していることだけは間違いない。雨垂れ石を穿つ、はずである。

特記:5/16に提出された立憲民主党による修正案は附則についてであり、法成立後から10年後に見直しを検討する規程を5年後に短縮する案である。環境アセスメントのデータは本改正案によって継続的に公開されることになることから10年後の見直しの検討で十分である。これまで法制化後され20年以上の現行法の運用実績があり大きな問題は発生していない。そのことからも5年ごとの見直しは不要とすることが妥当ではないか。また、本法案は新規や既存の工作物の撤去や新設の際の手続きを見直すものであることから政策対応としては十分であり附則の修正には及ばないと考える。


*過去のアセス調査の結果を反映するとしても四半世紀前のデータでは現実に即さないことも起こり得るのではないか。これから更に年月経過するとデータと実際との差異は益々広がるケースが出て来るのではないか。よって、事業開始時おアセス調査からの経過年数に上限を設けるべきではないと考えるがいかがか。

*長期的にアセス手続きが進められていない事業が存在するときく。またアセス手続きが終了しても工事が開始されずに放置されている事業があるという。このような状況が起こらないようにする規定も盛り込むべきではないか。

*アセス情報の継続的な開示には事業者の同意を必要とする文言が明記されているが、それでは規定が機能せず限定的となるのではないか。


参考

環境影響評価法の一部を改正する法律案 参議院

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/217/pdf/t0802170512170.pdf

概要 環境省

https://www.env.go.jp/content/000290803.pdf

環境影響評価制度の課題と対応の方向性について 環境省

https://www.env.go.jp/council/content/i_01/000266002.pdf

壊れそうな自然を守る 日本自然保護協会

https://www.nacsj.or.jp/2025/02/44155/

環境影響評価法改正案の閣議決定にあたって 気候ネットワーク

https://kikonet.org/content/37578

今後の環境影響評価制度の在り方について(答申) 中央環境審議会

https://www.env.go.jp/content/000297725.pdf

環境アセスメントとは? エレミニスト

https://eleminist.com/article/3845

太陽電池発電所に係る環境影響評価の合理化に関するガイドライン 経済産業省

https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/files/taiyoudenchiguideline.pdf

青森県再エネ共生税・共生条例が県議会で可決、ゾーニングと課税を組み合わせた都道府県条例は全国初 ソーラージャーナル

https://solarjournal.jp/news/58899/

坂本雅彦ホームページ

坂本まさひこ  作家 国会議員秘書

0コメント

  • 1000 / 1000