新国立競技場は陸上の聖地となりうるのか
はしレーン。。
9月13日から21日まで東京で世界陸上が開催された。メイン会場となったのはもちろん新国立競技場。2020年の東京五輪のメイン会場として建替えられた競技場ではあるが、五輪開催当時と今回の世界陸上では設備環境に大きな違いがある。それはサブトラックの存在。東京五輪時には聖徳絵画館の前にあった神宮軟式野球場に仮設のサブトラックが設けられていたので国立競技場へのアクセスは目と鼻の先であり良好。ところが今回の世界陸上では代々木公園陸上競技場がサブトラックとして使用された。代々木公園から国立競技場へは車移動で約15分。決して隣接しているとは言い難いアクセスである。東京五輪時に使用した神宮軟式野球場に設置されたサブトラックは五輪終了後に撤去されたので使用できなかったことから3キロも離れた代々木公園陸上競技場を使用するしかなかったのだ。
ではなぜ神宮軟式野球場に仮設されたサブトラックは撤去されたのか。簡単に言うと設置された目的を果たし終えたからだ。そもそも五輪後には新国立競技場のトラックも撤去する予定となっていた。国立競技場の維持費は年25億円にも達すると言われ陸上競技場として存在するには採算上で無理が生じる。よって、トラックを撤去し客席を増加させることでサッカーのワールドカップにも対応できる多目的競技場に改修することで収益性の向上を図る方針であった。となるとサブトラックは五輪後に不要となることから仮設で設置して、五輪後には撤去するという方策は妥当であった。
ところが日本陸連は五輪後に方針を変更し国立競技場のトラックを残すことにした。そうなると当然の問題として持ち上がるのがサブトラックの設置問題。外苑の再整備は地主である明治神宮とデベロッパーである三井不動産が協議を重ねて進めてきた。再整備の構想では当初あったサブトラックの設置は国立競技場のトラックの撤去予定に準じて見送られ仮設することで凌ぐこととなった。それで生まれた容積を事務所棟などと称する高層ビルに転用する計画が立てられた。東京都は五輪後に都議会に諮ることなくこっそりと公園まちづくり制度を創設し神宮外苑の公園内に商業ビルの建設をできるようにした。伊藤忠との協議も進んでおり商業ビルの計画を白紙に戻すことは現実的ではない。とはいえ、国立競技場で陸上競技の国際大会を開催するには隣接したサブトラックは必要不可欠である。相容れない両計画に解決策はあるのだろうか。
五輪後に方針を転換した陸連に分が悪いのは当然である。陸上競技よりもサッカーやラグビーやコンサートなどでの利用の方が、収益性が高いのは明らかである。トラックを撤去して客席を1万2千席増加させることができればサッカーのワールドカップ誘致も夢ではない。結局、国立競技場のトラックは撤去するしかないのか。東京五輪に続き世界陸上でも使われた陸上の聖地となり得る国立競技場のトラックである。陸連が手放したくない気持ちになるのはよくわかる。だからと言って3キロも離れた代々木公園陸上競技場をサブトラックとして今後も使うとなると出場するアスリートの不満と不憫は解消されないし、国際大会の仕様標準にも劣ったままとなる。
そこで拙者が思い出したのが東京ドームである。東京ドームは屋内野球場としての顔以外にもう一つの顔を持つ。ドームの床下には競輪のバンクが備わっていて床を昇降させることで競輪を開催することも可能となる。国立競技場の隣接地に建設予定の新秩父宮ラグビー場は全天候型になるという。その全天候型ラグビー場の地下にサブトラックを設置もしくは昇降可能な収納型でサブトラックを仕込めないものだろうか。フィールドの大きさが随分と違うだろうから容易ではないとは思うが。
今回の世界陸上は目標の50万人を大きく超える62万人を集客し、最終日にはリレーのテレビ中継の瞬間視聴率が31%を超えるという大きな盛り上がりを見せた。「陸上の聖地を残して!」という声に応える為の努力を国、都、地権者らは惜しまないで頂きたいと願う。
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