洪水対策としての地下放水路について(浜田議員の調査依頼に対する回答の考証)

今年の梅雨は例年より長引くようです。長らくお天道様にお会いしていないような気がしています。長引く梅雨の最中にも日本各地で集中豪雨が発生しました。7月10日には熊本県南部、川辺川・球磨川流域の人吉市や球磨村では記録的な雨量をもたらす豪雨が発生し、河川の氾濫や土砂災害を引き起こして多数の犠牲者が出てしまいました。被災されました方々にお見舞いを申し上げるとともに犠牲になられました方々のご冥福をお祈り申し上げます。

さて、そうした中で浜田聡参議院議員が洪水対策や地下放水路について参議院調査室に調査の依頼をされており、その回答を頂戴致しましたので浜田議員に代わり僭越ながら私が査収の上、ここにご報告致します。


下記写真:沼津市公式観光サイトより

質問前文(浜田議員)

川の氾濫による浸水対策として、地下放水路についてご調査いただきたく思います。

春日部市にある首都圏外郭放水路や大阪の寝屋川北部・南部地下河川といったものがあります。雨水増補管と言ってもいいかもしれませんが、両者の区別は厳密ではありません。また、下水道との区別も微妙かもしれません。このように区別があいまいなままで恐縮ですが、調査をお願いしたく思います。


質問1(浜田議員)

ダムや河川拡張など浸水対策の選択肢がある中、こういった地下放水路・雨水増補管という選択肢はいつ頃考えられるようになってきたのか?


調査室回答

→御指摘の地下放水路・雨水増補管等、ダムや河川改修のみに頼らない総合的な治水対策は、戦後、高度経済成長に伴う人口集中や大規模開発の急速な進行を背景としております。都市圏へ人口が集中し宅地需要が増大したことに伴い、近郊の台地・丘陵地において大規模開発が進行し、流域が本来有していた保水・遊水機能が低下しました。また、地表がコンクリートやアスファルトで覆われ、森林や水田がなくなることにより、下流への流出が増大するとともに、河川拡幅の困難性等に起因して河川改修が追いつかなかったことから、低平地での氾濫被害が増加しました。

 以上により、都市部においては河川単独での治水対策が困難となり、流域全体での取組が必要となったことから、昭和52年(1977年)、河川審議会中間答申「総合的な治水対策の推進方策はいかにあるべきか」において、総合治水対策の強力な推進等が盛り込まれ、昭和55年(1980年)、建設事務次官通達「総合治水対策の推進について」において、雨水貯留浸透施設の整備等、保水・遊水機能の維持に資する総合治水対策を講ずることとなりました。

(国土交通省資料、佐々木一英「下水道事業における雨水貯留・浸透のあゆみ」『水循環 貯留と浸透』(平成22年7月)より作成)←


・・・・上記回答より総合治水対策の一環として放水路も治水対策として処されるようになったということでしょう。総合治水対策とは流域と河川が一体となって対策をしていくことを意味しています。それは河川流域の都市化に伴い要する不可欠な整備方法になったと思います。


質問2(浜田議員)

春日部市や寝屋川以外に日本国内で大規模な地下放水路があるのか否か?また工事計画があれば教えてください。


調査室回答

→下水道・河川への雨水流出量を抑制するという役割を同一にしているため、御指摘のとおり、地下放水路(地下河川)と雨水貯留施設等は厳密に区別できないところ、地下放水路(地下河川)の代表的なものは御指摘の首都圏外郭放水路や大深度地下を使用する寝屋川北部地下河川(ただし完成までは雨水貯留施設として使用)などが挙げられます。

このほか、上記のような大規模のものではありませんが、福岡県が高尾川床上浸水対策特別緊急事業として実施しているものなどがあります。なお、令和2年6月から、高尾川流域の浸水被害軽減のために地下河川トンネルの運用を開始し、今年の秋以降に地下河川の完成に向けた工事を実施する予定とのことであります。

詳細は以下のURLを参照していただければ幸いです。

https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/takaogawa-yukaueshinsuitaisaku.html

(福岡県資料より作成)←

写真資料:二日町コミュニティ運営協議会、地下河川見学会より

・・・被害が甚大になり得る都市部を水路がバイパス的にワープする短距離の地下トンネルは緊急措置としても浸水被害の軽減を図る上でも効果を期待できると思います。


質問3(浜田議員)

ダムや河川拡張、地下放水路に加えて浸水対策の選択肢はほかに何があるか?


調査室回答

→選択肢として、雨水貯留・浸透施設、調節池(調整池)、遊水地(池)などがあります。

調節池や遊水地は、河川に沿った地域で、洪水流量の一部を貯留し、下流のピーク流量を低減させ洪水調節を行うものです。

例えば、東京都の例を挙げますと、掘込み式、地下箱式、地下トンネル式の3つの型式があり各河川の状況に応じて整備しています。

これまで東京都が整備した28調節池のうち、各形式の内訳は、掘込式16施設、地下箱式9施設、地下トンネル式3施設となっております。

代表的な例を挙げますと、供用中のものとして「神田川・環状七号線 地下調節池(地下トンネル式)」、整備中のものとして「環状七号線地下広域調節池(地下トンネル式)」があります。

詳細は以下のURLを参照していただければ幸いです。

https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/river/chusho_seibi/ike.html

また、令和元年台風第19号の際には、国土交通省の直轄河川改修事業で、約3,500万㎥を貯留することにより被害軽減に寄与した「荒川第一調節池」や、約94万㎥を貯留し鶴見川の水位の低下に寄与した「鶴見川多目的遊水地」(下記URLを参照)が治水施設として機能しました。なお、荒川流域の抜本的な治水安全度向上を図る「荒川第二・三調節池」は現在事業中であります。

https://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/keihin00119.html(鶴見多目的遊水地)

雨水貯留・浸透施設は、都市部における保水機能の維持のために、雨水がいっきに川に流れ出さないように一時ためておいたり、雨水を浸透させるために設けられる施設です。

例えば東京都の例を挙げますと、都営町田小川団地、保谷駅南口地区第一種市街地再開発事業施設、港区立芝公園多目的運動場、多摩霊園、三鷹市生活道路などにおいて、実施されています。詳細は以下のURLを参照していただければ幸いです(p93-p97)。

http://www.tokyo-sougou-chisui.jp/shishin/shishin-siryou.pdfm

(東京都資料、国土交通省資料より作成)←


・・・荒川第一調整池の詳細https://www.ktr.mlit.go.jp/arajo/arajo00150.html

荒川第二・第三調整池の詳細https://www.ktr.mlit.go.jp/arajo/arajo00761.html

をご覧ください。いろいろな治水方法や治水レベルがあることを把握しました。その上で大規模な洪水による甚大な被害を招くのは河川の氾濫によることが予期されますが上記では荒川の調整池や鶴見川の遊水地による治水が国民の安全に寄与する効果が大きいと期待されます。


質問4(浜田議員)

地下放水路に関する国会での議論があれば資料をいただきたいです。


調査室回答

・第193回国会衆議院国土交通委員会議録第4号(平成29年3月29日)4頁、5頁

・・・・公明党伊佐議員の質疑。大阪府の寝屋川流域の淀川と大和川に挟まれた地域には270万人が共住しているが川面より低い内水域です。この地域は降った雨が自然に流れていかないのでポンプによる排出しか方法がありません。国土交通省は総合治水対策を進めてきた結果、時間最大降雨50ミリ規模での浸水被害は昭和47年には61400戸に上ったが平成28年の局地豪雨では36戸となり対策の効果が発揮されてきました。とはいうものの昨今のゲリラ豪雨は時間60ミリから80ミリという雨であり平成24年に床上浸水2554戸、床下浸水17080戸の被害が出ています。国土交通省は、局地化、激甚化した豪雨に備えるハード・ソフト両面の再構築を進めています。また、下水施設の老朽化が進んでおり下水道の雨水ポンプ場は全国に1500か所あり、そのうちの1100か所において対応年数を経過しています。国は維持修繕管理基準を創設し計画的な点検・修理・改築等を地方自治体に義務付けると共にその費用を支援する下水道ストックマネジメント支援制度を創設し老朽化対策に積極的に取り組んでいます。


・第150回国会衆議院災害対策特別委員会議録第2号(平成12年10月5日)5頁、6頁

・・・・自民党、谷田議員。平成12年の東海豪雨の際に建設省管轄の庄内川と愛知県管轄の新川の境にある洗い堰(建設省管理)が開いていたために新川が決壊し甚大な被害が出ました。50ミリ60ミリという雨に対応できれば良いというわけではなく今回の豪雨のような90ミリの豪雨にも対応できるように、例えば、直接海に流す地下放水路を建設していくという必要があるのでは思います。名古屋市の中心部には新堀川の治水対策として若宮大通に約10万㎥の地下ダムがあるが今回の豪雨でそれが満杯になっています。中部地方建設局が新川上流部の洪水をどうやって庄内川に導くか、地下放水路案、地下貯留池案、調整池案など各案を見出して治水対策を推進していきます。


・第147回国会参議院国土・環境委員会会議録第17号(平成12年5月18日)23頁、24頁

・・・・民主党大渕議員。地下河川は小規模な雨では到達しないのみ口が高いところに設定されていてある一定の大きさの洪水になるとそこから水が入り地下の空洞のダムに溜まる形式になっています。洪水が終わり川の水が低くなった段階でポンプでくみ出し川に戻すという仕組みです。平成5年の神田川の洪水では床下床上3100戸以上の被害が出ているが地下放水路稼働後の平成9年の同規模の雨の際には被害が出ませんでした。寝屋川においても同様に昭和57年の洪水では床上床下浸水が2600戸以上に上りましたが地下放水路稼働後の昭和61年に発生した同規模の洪水では床下浸水8戸にとどまっています。ポンプ代に年間1億円程度かかっているが人々の生活と財産を守るという点では多大な効果があります。

・・・上記3件の国会答弁より近年しばしば発生しているゲリラ豪雨に対する治水整備として地下放水路は大きな成果を上げ効果を発揮していることが確認できます。


質問5.6(浜田議員)

浸水対策において、ダムや河川拡張に比べてこの地下放水路工事にかかるコストはどうか?浸水対策において、ダムや河川拡張に比べてこの地下放水路の効果はいかほどか?

※コストや効果は工事範囲によると思うので比較可能な範囲で調べていただければ結構です。


写真資料:八ッ場ダム、利根川統合事務所、国土交通省HPより

調査室回答その1

→地域により事情が異なることかと存じますが、まず八ッ場ダムの事例を紹介いたします。

概略評価がページ4-71に示されております。

地下放水路を含む案については、いずれもダム案や河道改修を中心とした対策案と比べ、コストが高いとされておりました。

詳細は以下のURLを参照していただければ幸いです。

https://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000192.html←


資料出典:国土交通省関東地方整備局、八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書

・・・・Ⅲダム以外の大規模治水施設による対策案には④放水路新設案がありますが4兆5千億円のコストが見込まれており河道掘削案の4.5倍以上に値します。また、⑤放水路新設と河道掘削とを組み合わせた案も1兆7千7百億円を要し河道掘削の1.7倍近くの費用と目されています。ダムを除外して利根川流域の治水を検討する場合においても放水路を新設することは非現実的だということがわかります。また、効果を図る洪水調節の安全度の指標にはコストが高すぎる放水路新設の評価は既に記述がないがその他の方法の中でもダム建設による安全性は発揮されているという評価をされています。また、既に着工している工事であることからコスト面でも優れていると言えると思われます。

調査室回答その2

写真資料:https://www.youtube.com/watch?v=58aI-pYxDoQ より

→次に、今般の令和2年7月豪雨により被災した球磨川水系における、かつて建設が中止となった川辺川ダムに係る事例を紹介いたします。

令和元年11月13日に、球磨川治水対策協議会整備局長・知事・市町村長会議があり、複数の治水対策の組み合わせ案の課題整理の軸ごとの評価(案)が示されております。

下記図表中の(F)と(G)が放水路(地下放水路)案となっており、河川改修等と比べて、ルートによっては安全度(被害軽減効果)に懸念があることや、費用が高いことが示されております。なお、新ダム建設案は除外されているため本資料にはありません。また、個別の対策では目標の効果が期待できないため、複数の治水対策を組み合わせた上で整理しています。←


・・・・まずは費用面の比較です。


資料出典:(以降6図全て)国土交通省九州地方整備局、熊本県、球磨川治水対策協議会、「複数の治水対策の組み合わせ案の課題整理の軸ごとの評価(案)」より

・・・・上記の表の(F)と(G)が放水路を含む案だが、(F)は川辺川上流部から球磨川中流部までを放水路とした案、(G)は川辺川上流部から八代海まで放水路とした案である。

全10案の中で最も高額なのは遊水地17か所を組み合わせた案の(D)であり、最もコストが低いのは(C)案で堤防を嵩上げする案です。放水路を含む(G)案は3番目に高い案です。放水路と堤防嵩上げを食い合わせる(F)案は3番目に費用が安いと予想されています。また、(F)(G)案は共に完成までの予想工期30年から50年と想定され他の案は全て50年以上と想定されていています。

そして効果の比較を試みます。

・・・・ダムや河川拡張と放水路との効果の違いを比較するにあたり効果の指標として安全性を指標として検討してみる。比較しやすい物差しとして①昭和40年7月洪水に対する効果で(B)の河川掘削と引堤を組み合わせた案と(D)の遊水地と引堤を組み合わせた案と(G)川辺川上流部から八代湾まで放水路にする案の3案が昭和40年7月洪水と同規模の洪水を安全に流すことができると評価されている。ちなみにこの3案の中で最も施工費用が安いのは(B)案の6000億円である。なお、放水路を含む計画である(F)案では堤防嵩上げをした区域に内水被害が出る可能性があると評価されている。

下記、調査室の回答に戻る

→放水路に関し各自治体からは以下のとおり意見が述べられました(主な部分を抜粋し、体裁面での修正を加えております。)

○「八代市は下流に位置するので、八代市の上流側で放流する放水路案の影響が大きい。放流水のピークが重なると、河川水位が高くなる可能性があり、八代市の上流側で放流するルートは避けて頂きたい。」(八代市)

○「• 複数の案が、昭和40年7月洪水と同規模の洪水を安全に流すことができるとして示されたが、実現性(⑧土地所有者等の協力の見通し)を見たとき、組み合わせ案(G)が、移転戸数・用地買収が最も少ないため最良の案と考える。

• 放水路案については、技術的な面で不安というような説明があったものの、放水路のルート上にある山間部については、高速道路として数多くのトンネルが設けられており、その実績からして、素人考えであるが実現できるのではないか。

• なお、上記組み合わせ案(G)にある上流部の河道掘削については、早期の施工を望む。」(錦町)

○「放水路(F)又は(G)であれば、引堤や嵩上げで発生する住宅や優良農地の移転が不要であること、また洪水調節機能が効果的で実現可能な方策と考える。」(相良村)

○「対策案(放水路)について

• 川辺川上流部からの放水路案(F及びG)は次の事から実現や効果に疑問があります。

1)放水路は完成しなければ、その効果の全てが発現されない対策であり、完成まで相当の期間と多額の投資が必要で、その間、洪水災害等が発生した場合、別途対策が必要となる。

2)川辺川上流部に呑口部(流入口)を設置する場合、その対策が十分可能なのか疑問である。

その理由は、

①河床の変動が激しいこと。

②河川への土石の流入が激しく、呑口部及び放水路内の適正な管理が可能か。(堆砂や放流部での大量の土石排出)

③呑口部の安定化のため堰等の構造物設置が可能か。

• 放水路案については、技術的検討や費用対効果から相当の議論が必要であり、安全度が低い球磨川では早期の対策が求められている中、現実的な対策となり得ない。」(五木村)

詳細は以下のURLを参照していただければ幸いです。

http://www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/river/damuyora/index.html

(「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書」(国土交通省資料)、第9回球磨川治水対策協議会資料より作成)←


・・・・そのほか、ダム再開発案や遊水地案に比較して放水路を含む案の利点は移転しなければならない戸数が極端に少ないことがあげられます。また、掘削量が少ないことから水環境に及ぼす影響が少ないと言えます。また、橋梁架替が少なく済みます。将来における拡張性も備えています。

以上です。

*下線部分が私の拙い考証にあたります。

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