ケムトレイルとジオエンジニアリングについて(参議院浜田聡議員の調査依頼に対する回答)

8月も半ばに差し掛かろうとしています。窓の外ではセミの鳴く声も聞こえ、やっと夏らしい趣を感じるようになりました。都市圏では一旦は終息に向かうように思われたコロナ禍が再び蔓延してきたことで夏休みなのかコロナ休みなのかどっちつかずの複雑な心持になる今日この頃です。

さて、参議院浜田聡議員が参議院調査室に依頼されました‘ケムトレイル’について回答を頂戴しましたので浜田議員に代わりまして私が僭越ながら下記のようにご報告致します。


質問と回答を記述するのに先立ちまして‘ケムトレイル’について少し調べました。ウェキペディアによりますと

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%A0%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%AB

【ケムトレイル (英: chemtrail)は、飛行機雲(英: contrail)に似ているが直ぐに消散せず長く残留する特徴があり、航空機から散布される有害な目的を持った人工物質であるとする説があります。

「極秘プロジェクトに係わる航空機から散布された何トンもの微粒子状物質」で「アスベスト、バリウム塩、アルミニウム、放射性トリウムなどを含む有毒金属を含んでいる」という主張には具体的根拠や統計的数値が記されていない。また「航空機から散布された何トンもの微粒子状物質は、大気を高電荷の導電性プラズマにする」に関しても人為的操作の具体的技術は示していない。】

以上のことを念頭に置きますと、目的や効果の真偽が定まらない状況において使われる用語としてのケムトレイルではなく、大気中に物質を散布するケースとして‘国家的な関わりとしての地球温暖化に対する取り組み’に置き換えて参議院調査室が回答して頂いたものと認識しました。


参議院浜田聡議員の質問

・ケムトレイルに関する日本政府の公式見解。

・ケムトレイルに関する日本国内における何らかの学会による見解。


下記、画像出典:https://ameblo.jp/voyage011/entry-12158612065.html

参議院調査室の回答

→結論から申し上げますと御依頼の資料を見つけることができませんでした。

会議録及び質問主意書においても、「ケムトレイル」について言及されたことはなく、過去、国会において審議されたことはないと思われます。

日本国内の学会において話題になったことを示す資料についても探すことはできませんでした。←

ケムトレイルに関してはアメリカの小学校の教科書に記述があったり、アメリカ議会に気候操作研究開発ポリシー承認法が提出されたこともあるようですので国会図書館に調査依頼をするとより状況を把握できる回答が得られるかもしれません。

→なお、今回の御依頼の御回答としては直接当てはまりませんが御参考までに「太陽放射管理」(ソーラージオエンジニアリング)について資料を御送付いたします。

これは地球温暖化対策として研究が進められている地球工学(ジオエンジニアリング)の一種であり成層圏に太陽光を遮断する物質を散布し地球温暖化を食い止めようとする手法です。

単純に地球温暖化対策だけでなく気象兵器製造の抜け道につながる懸念があり、政治的、社会的、生物学的な多方面の問題があることが指摘されています。

ジオエンジニアリングにつきましては、国会でも言及されたことがございます。←


以下、参考資料:第174回国会参議院国際・地球温暖化問題に関する調査会会議録第3号

       (参考人の山本良一東京大学教授の発言)

山本教授の言う選択肢は化石燃料を使うか使わなくするのかです。化石燃料を使いながら温暖化対策を行う方法としてジオエンジニアリングが存在します。一方、化石燃料を使わないようにするには20年で原子力発電所を235基、CCS(炭素回収貯留)を460基建設することを必要とするので非現実的です。ではジオエンジニアリングは例えば巨大な円盤を宇宙空間に打ち上げて太陽光を遮断する場合は500兆ドルが必要となります。その他に海面から雲を意図的に作り太陽光を反射させるとか硫酸エアロゾルを成層圏に注入するとかいう方法があるが、これらは42億ドルで実現できると見積もられています。ただ、これらはやればやるほど青空がなくなるなど副次効果も現れます。


→また、政府資料にも取り上げられております。

以下、参考資料:IPCC「1.5℃特別報告書」の概要(2018年度 環境省)54頁

        IPCCでは太陽放射管理の手段はとらないとしています。←

http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf

環境庁は地球温暖化に対する取り組みとしてジオエンジニアリングは想定しておらず、エネルギー代替案にてシステム移行を行っています。具体的にはCCSなしの発電所からCCS付きの発電所に移行することや太陽光発電、CCS付バイオマス燃料、風力発電など再生可能エネルギーの導入推進、蓄電技術、エネルギー消費の効率化等を複合的に測ることでCO₂排出量を2030年には45%削減、2050年頃には0%になるように努めていく方針です。

*気温上昇を1.5℃に抑えるには地球物理学、環境・生態学、社会文化、経済的側面、制度的側面など複合的な整合や緩和や適応を評価されなければなりません。また、人間の生活様式や行動様式も実現の可能性を高めると考えられています。(上記資料74頁)

*適応策と持続可能な開発のトレードオフは貧困、飢餓、水、エネルギーアクセスに影響を及ぼす可能性があるので慎重に管理されなければなりません。(上記資料71頁)


下記、写真出典:2011年6月19日exciteニュース「巨大反射シールドで地球を冷やせ!」

以下、参考資料:2018/02/09 WIRED.jp 地球を救うための「太陽光の操作」が、生態系を破壊する? 「気候工学」の知られざるメカニズム

【政治的な思惑も大きな要因になる 例えば、世界全体が一体となって、人間が生き残る唯一の希望は太陽放射管理であると判断したとしよう。飛行機は赤道の上力ら飛び始め、大量の二酸化硫黄を散布し、地球は冷え始める。だが悲しいことに、これがどの国にも同じような影響を及ぼすわけではない。降水量の増加の恩恵を受ける国がある一方で、干ばつに見舞われる国も出てくるのだ。そのような状況で、中国やインドのような巨大な国が悪影響を被った場合、気候工学による操作を非難し、停止を要求する可能性がある。論文の筆頭著者であるメリーランド大学のクリストファー・トリソスは、「地球規模での太陽放射管理の展開方法に関しては、複数の国が一団となって、力の弱い国々よりも自分たちにとって有利に働くよう強大な権力を振り回す可能性があります」と述べる。あるいは、地球そのものが重要な鍵を握る可能性もある。これまでの歴史で、火山は常に二酸化硫黄を大気中に排出してきた。つまり、ある程度の規模の大噴火が起これば、気候の大変動が引き起こされる。実際、1815年5月にはインドネシアのタンボラ山が大噴火し、世界全体に多大な影響を及ぼした「夏のない年」につながった。1783年6月にはアイスランドのラキ火山が噴火し、これが原因となって重要な季節 風が弱まったため、インドや中国などに飢饅が起こった(日本では同年8月に浅間山が大噴火を起こした 影響もあり、天明の大飢饅が起こった)。 英イースト・アングリア大学の環境科学者フィル・ウィリアムソンは、「火山噴火が立て続けに起こって地球を冷やす効果が生じれば、人々が太陽光のコントロールを止めた方がいい』と言う理由になるかもしれません。そして結果としてリバウンド効果が起こります」と述べる。】

一旦、太陽放射管理を始めるとそれを停止することで世界中の気候に大きな影響を及ぼすことは明々白々です。つまり、太陽放射管理を行っている最中に火山の大噴火などが起きて太陽放射に更なる影響を引き起こした場合は太陽放射管理を行わなくても温暖化は避けられると考えられます。しかし、永久的に大噴火などの影響が続くことはないにも関わらず太陽光のコントロールを止めるといずれリバウンドが来た場合は現状よりも厳しい温暖化にみまわれる可能性があるということを記事は指摘しているのだと思います。しかしながら、噴火時に太陽光のコントロールを継続して行ったままであると噴火からの影響と太陽放射管理の影響と二重に作用することになり想定外の影響を及ぼすことも考えられるでしょう。よって、それらの影響値の仮定と措置の技術開発が望まれると考えます。


以下、参考資料:2016/04/10朝日新聞

(編集委員・石井徹)気候を操作する 地球冷却、見えぬ効果・副作用

【技術は大きく二つに分けられる。一つは太陽光を反射させて地球を冷やす方法で、「太陽放射管理」と呼ばれる。上空の成層圏に工一ロゾル(浮遊粒子状物質)をまいたり、海水を噴き上げて雲を白くしたりすることで反射率を上げる方法が知られている。工一ロゾルの効果は、過去の大規模噴火でわかる。1991年のフィリピン・ピナトゥボ火山の噴火では、世界の気温が最大0・5度程度下がったとされる。もう一つは、大気中からCO2を取り除く方法。吸着する物質を使って直接回収する方法や、海に鉄をまいて植物プランクトンを増やし光合成を促す方法などが代表的だ。植物にCO2を吸収させて発電などに使い、排出されたCO2を地中に閉じ込める「バイオマスCCS」という方法もある。鉄の海洋散布実験は93年に始まり、CO2の直接回収は宇宙ステーションや潜水艦などで実際に使われている。バイオマスCCSも技術的には可能なレベルだ。】

鉄の海洋散布は生物多様性条約やロンドン条約にも抵触する可能性があるという。それ以前の問題として「意図的に気候を操作して良いのか」という倫理的な問題も指摘されています。既にCO₂削減に関して各国にて取り組んでいる中でその意欲を削ぎかねないという指摘すらあります。地球工学は二酸化炭素削減策が遅れた場合の代用策だという位置付けに外ならないはずです。研究の役割や管理などガバナンスの問題も重要だと警鐘を鳴らしています。


以下、参考資料:2010年09月28日クライヴ・ハミルトン 恐るべき地球工学の実態

【カルガリー大学のデヴィッド・キース氏は太陽放射管理に国際協定は不要であり暗黙の「基準」で規制することができると主張する。これは一国の単独行動がかなり現実的になってきていることを認識した上での発言である。12力国のうちのどの国も2、3年あれば始められる。1人の金持ちが大気を変えることが可能だし、 相当な決意をもってすれば氷河時代を築くことだってできるのだ。キース氏が期待を寄せるのはおそらくビル・ゲイツ氏だろう。ゲイツ氏はキース氏とカルデイラ氏の進言を受けて3年以上も秘密裏に地球工学研究に資金提供してきた。キース氏とカルデイラ氏は今やゲイツ研究資金を管理しており、現在のところ、3度のタ食会を含め450万ドルを費やした。キース氏は 「小規模の個人資金提供機関」にすぎないからとその資金が何に使われたかは明らかにしてはいない。(現在は、ゲイツ資金に支援を受けているプロジェクトはここに開示されている)なるほど。世界一裕福な人物が地球の気候システム操作の研究にいそしむ小規模の個人資金提供機関を所有しているわけだ。】

下記写真:内閣広報室、パリ協定

キース氏は太陽放射管理について国際協定は不要であり、暗黙の「基準」で規制すると主張しています。中国、アメリカ、EU、ロシア、インド、日本、オーストラリアは単独で行動を起こしそうな国だと言われています。キース氏はそれに沿う主張をしている。温暖化によって深刻な影響を受ける国が多い中でロシアは2℃程度の気温の上昇は受け入れる立場であろうと思われています。赤道を中心に太陽光を遮断する物質を散布したとしても地球規模にその影響は及ぶこととなりロシアも例外ではありません。よって、各国間での太陽放射管理の是非の一致は得難いことだと思います。とは言うものの、私はゲイツ氏の投資に関して気候正義の考えの基で人類への貢献を誠に捧げているのだと肯定的に受け止めています。


以下、参考資料:2017/01/3006:30日本経済新聞電子版 

温暖化対策の難しさを江守正多国立環境研究所室長に聞く

【「これが正しいと倫理を説くのは難しいが、考慮すべき倫理的な視点を媒介役が提供することはできる。例えばツバル、キリバスなど島嶼国の人は国がなくなる恐れがある。しかもその原因をつくったのは彼らではない。公正さや正義の観点からこれをどう考えるのがよいのか。仮に私たちが国土を失い移住を強いられることになったとし、外国から『悪気はなかった。さて補償は要りますか』と問われたらどう感じるだろうか。これは地域的な公正さの問題だが、世代間の公正さの観点もある」

「社会的議論という点で、もうひとつ強調したいのは気候工学の問題だ。気候工学は、例えば高層大気に微粒子を散布して太陽光を遮る“太陽放射管理(SRM)”など人為的に気候のコントロールを目指す技術だ。将来の話だが、世界各国が努力して脱炭素化を達成したとしても気温上昇が2度を超えそうだとわかったとき、気候工学を駆使してまで目標を守るべきかどうか。2度を超えるのはなぜいけないのか。もう一度突き詰めた議論をする必要が出てくるだろう」

「気候工学を採用することを前提にするのではなく議論の準備をしておく。世界の人びとの生き方に関わる倫理的問題を含むうえ、誰がそうした判断をして実行するのかというガバナンスの問題もはらむからだ」】

世界では経済的に強者と弱者の国に分かれます。地理的にも環境的にも温暖地と寒冷地にもわかれます。たとえその中間地であっても気候変動によって様々な影響を受けることになります。世界中に困難に見舞われている国や地域のある状況下で、真の意味での地球環境についての取り組みに関し、倫理観を持って判断することは可能なのでしょうか。ロンドン条約は発効されましたが、1.5℃と2℃では経済的コストが大幅に違います。各国の経済力の違いに対する変動を設定値に与えないことによるリスクは存在するはずです。経済的に脆弱な国があれば、地球環境をテーマにした倫理観を持って、経済の市場原理を超えた支援を見出すことで化学技術が活かされて人類の共栄を図れるものだと思っています。併せて、日本でも地球環境問題に対する踏み込んだ議論が一般化することを期待します。


以上、下線の部分は私の方で記述しましたことをご容赦ください。

ありがとうございました。

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