運輸安全委員会の国会同意人事案について
運輸安全委員会の国会同意人事案についてである。運輸安全委員会の役割は航空、鉄道及び船舶の事故・重大インシデント(事故が発生する恐れ)が発生した際に事故による被害の原因を究明するための調査を行うことである。そして、事故等の調査の結果をもとに、事故・インシデントの再発防止や事故による被害の軽減のための施策・措置について、関係する行政機関や事故を起こした関係者等に勧告・意見を述べることにより改善を促すことである。運輸安全委員会には常勤委員が9名、非常勤委員が4名の合計13名の委員が任命されている。二年ほど前に本委員会を調査したことがあります。
https://masahikosakamoto.amebaownd.com/posts/42020110
さて、最新の事故調査は本年1月30日に公表された秦野市で発生した墜落事故についてである。事故を起こした個人所属ロビンソン式R22Beta型JA7975は、令和3年10月7日、神奈川県足柄上郡大井町内の赤田ヘリポート場外離着陸場を離陸し千葉県木更津市内の木更津場外離着陸場に向け飛行中、神奈川県秦野市内の畑に墜落した。同機には機長のみが搭乗していたが死亡した。機体は大破したが火災は発生しなかった。原因は同機が有視界気象状態を維持できない高度で雲中を上昇中にローター回転速度が低下し、機長がLOW RPM警報音を聴いた際、急激な操縦装置の操作を行ったため不安定な低G飛行状態が継続して、致命的なマスト・バンピングが発生し操縦不能に陥って墜落したものと推定される。ローター回転速度が低下したのは、雲中でキャブレター・ヒートを適切に使用せず、上昇を継続し、エンジン出力が不足したことによるものと考えられる。また、雲中飛行が継続されたのは、飛行前にVMCを維持できる巡航高度が考慮されないまま出発し、かつ、飛行中に高度情報の適切な把握による修正が行われなかったためと考えられる。
https://jtsb.mlit.go.jp/index.html 運輸安全委員会HP
その他、運輸安全委員会では羽田空港で発生した日本航空と海上保安庁の機体の衝突事故など航空、船舶、鉄道のそれぞれが事故と重大インシデントに関して調査が進められている。同時に安全対策の啓蒙も行っている。
さて、常勤の委員長の新任案である李家賢一氏は東京大学大学院工学系研究科航空学修士課程を修了。科学技術庁航空宇宙技術研究所新型航空機研究グループ主任研究員を経て東京大学大学院工学系研究科教授を務める。交通政策審議会委員に任命されたこともある。航空機設計や流体力学に関する論文を多数発表し受賞実績もある。日本の航空力学の分野では第一人者であることは間違いない。日本航空宇宙学会の会長であり国際航空科学会議の理事でもある。航空機構造に関する分野において実績、見識、研究成果など群を抜いて高い評価を得ている人物であり、まさしく運輸安全委員会の活動領域に合致した専門性を有していることから李家賢一氏の常勤の委員長としての新任案には賛成するべきであると考える。
常勤の再任案である早田久子氏は東京大学法学部卒の判事で現在は弁護士である。ハーバード大学大学院で法学修士を取得している。広島、松江、岡山の簡裁や地裁で判事を経験し、東京地裁判事を務め退官。損保会社に勤務した経験もある。家事事件、民事事件に長く接しており運輸事故とは畑違いではあるが本委員会では唯一の弁護士であることから客観性、公平性を持った国民目線での審議への参画が期待できる。ちなみにNHKと東横インの放送受信料裁判での審理員を務めたのが早田氏と言われている。誰も泊まっていない空室の受信料をホテルに課す結果になったのは理不尽だと思うが早田氏の審理内容は不明なので批難には当たらない。既に1期を弁護士として経験した上での再任案であることから賛成することが妥当であろうと考える。
常勤の新任案である高野滋氏はANA総合研究所顧問である。前任者の島村淳氏が元JAL安全推進本部フェローであったから航空会社枠なのだろうか。高野氏は東京大学工学部を卒業後、運輸省に入省、在カナダ日本大使館一等書記官、国交省航空局安全部長を歴任している。大阪関西万博でも飛行が計画される空飛ぶ飛行機の社会実装に関わる課題にも取り組んでいる。官僚時代は一貫して航空局、退官後は空飛ぶ飛行機に関する取組にまい進するなど航空機の運航と安全確保に生涯を通じて従事してきたと言える。高野氏の持つ専門性の高い見識と経験は本委員会の趣旨に完全に合致しており高野滋氏の本委員会の常勤での新任案は最適であり賛成するべきだと考える。
非常勤での再任案である津田宏果氏は和歌山大学教育学部卒業後、電気通信大学大学院情報システム学研究科前期課程を修了。宇宙航空研究開発機構の研究員となり、航空技術部門に現在に至るまで一筋に勤務している。飛行力学、制御、飛行シミュレーションが専門。現在は次世代運航システムの開発に携わっている。45歳と若いが本委員会委員に既に2期にわたり任命されており本案は3期目の再任案である。システムに起因する事故もあり得るし、事故の経験をシステム開発に活かすことができると考えれば津田氏の起用は本望である。よって、津田宏果氏の非常勤での再任案には賛成するべきだと考える。
非常勤の新任案である松井裕子氏は大阪大学大学院人間科学研究科博士課程を修了。原子力安全システム研究所社会システム研究所に勤務する研究員である。原子力の安全性とヒューマンファクターとの関連を研究している。航空機分野でもヒューマンエラーが起こり得ることから松井氏の専門分野と関連性はある。論文には「緊急事態への対応と個人特性との関係―身近な緊急時対応経験に着目して」「指示内容の正確な伝達を確認する手法の有効性の検討」などがある。本委員会で取り組む安全性の向上と松井氏のヒューマンファクターの研究とは親和性があることから松井裕子氏の本委員会の非常勤委員への新任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での新任案である高橋明子氏は早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程を修了。労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の上席研究員である。専門は応用心理学。労働災害防止の為の調査研究を続けている。著書に「応用心理学ハンドブック」「ヒューマンエラーの理論と対策」がある。東京消防庁の火災予防審議会委員を務めている。リスク管理など労災防止に関する知見を有し船舶事故防止に関わる課題には高橋氏のもつ専門性が活かせるものと思われる。よって、高橋明子氏の非常勤での本委員会委員の新任案には賛成するべきだと考える。
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