公害健康被害補償不服審査会委員の国会同意人事について
もり公害よしだ健康。。。
公害健康被害補償不服審査会委員の国会同意人事についてである。2年連続で当会の同意人事についてレポートしている。下記に同会の活動と役割について説明しているので引用する。
https://masahikosakamoto.amebaownd.com/posts/42048767
https://masahikosakamoto.amebaownd.com/posts/51759992
公害健康被害補償不服審査会というのは環境省の審議会の一つ。公害健康被害において、障害保障費、児童補償手当、療養手当、葬祭手当の補償等をすることを企業や国、地方自治体が行うことを定める公害健康被害補償法に基づいて環境省が所管する会である。
公害健康被害補償制度というのは特定地域に一定期間居住して慢性気管支炎になったり、気管支喘息になった場合や特定の病気、例えばイタイイタイ病や水俣病や慢性ヒ素中毒症にかかった場合に保障される制度である。給付されるのは療養費,障害補償費,遺族補償費,遺族補償一時金,児童補償手当,療養手当および葬祭料とされている。認定は都道府県知事、もしくは独立行政法人環境再生保全機構が行う。1987年以降は、大気汚染は公害病とは認定されないことになっている。ただし、既に認定を受けている者はその後も引き続き給付を受けることができるようだ。最近ではアスベストによる中皮腫・肺がん・石綿肺・びまん性胸膜肥厚の発症による公害認定が多くなっている。アスベスト被害はアスベスト生産工場に勤務する人だけでなく建築現場や鉄道や造船など様々な用途でアスベストが使用されていたための健康被害が広がってしまったようである。国が規制権限を行使して工場に局所排気装置の設置を義務付けなかったことが違法であるという裁判所の判決が確定したことから保障制度を創設して賠償を行っている。
では、公害健康被害補償不服審査会の出番についてだが、例えば慢性気管支炎で公害被害、の認定を受けていた患者が食道癌を発症し死亡に至った場合、公害によって発症した慢性気管支炎の症状によって食道癌の確定診断と治療が遅れたことによる被害を被った、などという二次的な補償を求めたケースもある。自治体では却下された判断が不服審査会で自治体の判断を取り消す決定を行ったこともある。中皮腫においても、画像診断では中皮腫を積極的に示唆する所見はないことから被害を認定しなかったケースが、病理組織診断では腹膜に浸潤を伴う結節が見られ腫瘍細胞の免疫染色の結果から胸部中皮腫と認定することもあった。
本会の審査部は第一から第七までの7審査部に分かれている。第1審査部、第2審査部、第3審査部は水俣病に係る審査請求を行い、第4審査部、第5審査部、第6審査部は大気系疾患及び石綿系疾患に係る審査請求を行う。第7審査部は審査会が必要と認めた件を審査する。各審査部は合議体で委員が3名ずつ所属する。
令和7年の審査請求数は水俣病が916件で処理済みが863件、決定が覆ったのは14件(1.6%9である。大気汚染系は380件の審査請求で374件の処理を行い46件(12%)の決定が取消になっている。石綿関係は404件の審査請求があり356件を処理、決定が取り消されたのは30件(8.4%)であった。水俣病関係は年月の経過とともに認定は減少、大気汚染も1987年以降は新たな認定は原則行わない方針だから減少。審査の主となりつつあるのが石綿関係である。中でも中皮腫での審査で決定が取り消され認定されることが多い。
委員の任命の基準は人格が高潔であって公害問題に関する識見を有し、かつ、医学、法律学その他公害に係る健康被害の補償に関する学識経験を有する者としている。人格など見当しようがないので、公平中立性及び公正の保持が義務付けられ専ら法と良心に従って裁定を下さなければならないとされる裁判官が適任である。医学に関しては医師、公害に関する学識経験者は当然のこと学者に絞られる。
さて、今回の同意人事は委員長と非常勤委員の2名。常勤の委員長の新任案である八木貴美子氏は慶応大学法学部を卒業し判事となる。千葉、横浜、福岡、東京の家裁や地裁の判事を務めた後に千葉地裁松戸支部部統括、さいたま地裁越谷支部長、横浜地裁相模原支部長を務め前橋家裁所長となり令和6年に定年を迎えている。八木氏の関与した裁判を色々と調べていたら面白いケースが見つかった。千葉地裁松戸支部勤務時代の損害賠償請求控訴事件の裁判で八木氏は裁判長となり他2名の裁判官での合議の上での判決を下す判決文で、裁判官の名前を間違え、かつ判決文に裁判官3人中2名しか署名がない判決文を出して、高裁での控訴審で「地裁での裁判手続きが違法」という理由で原判決が取り消されて差し戻されるというコントのような事態を招いている。裁判官も人間だからミスはする。せっかくの合議制なので誰かひとりが気付けば回避できたのだがそれもなかったのは驚きだ。さて、この件を理由に八木氏の能力を否定するつもりはない。本会は裁判所同様の裁決を無数に下すことを求められる。実務的にも判断能力も元裁判官が会長を務めることは妥当である。八木貴美子氏の常勤での新任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での新任案である山田広樹氏は東京大学医学部を卒業後、国立療養所下志津病院神経内科医長、帝京大学医学部神経内科助手、都立広尾病院神経内科部長、練馬光が丘病院神経内科部長を歴任している。神経内科が専門であるから本会とは親和性がある。本会には審査会委員6名とは別に非常勤の専門委員として医師が10名任命されている。山田氏は既に専門委員として本会の専門的な調査審議に携わってきた経験がある。専門分野や経験を鑑みて山田広樹氏の非常勤での新任案には賛成するべきだと考える。
参考
公害健康被害補償不服審査会
https://www.env.go.jp/council/33kougai_sinsa/yoshi33.html
(参考)審査請求処理状況
https://www.env.go.jp/content/000292600.pdf
平成29(ネ)2060 判例
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